ヤクヨウニンジン(薬用人参) ウコギ科 |
薬用植物の王様とも言われる薬用人参は、薬草の中で最も研究されている植物であろう。 |
そんな薬用人参の収穫や植え付けの時期は、ちょうど今頃になる。 |
長野県の上田から佐久にかけての地域は、古くから薬用人参の生産地として知られてい |
る。車で走っていても、人参の栽培が独特の形をした藁屋根の下で行われるから、すぐに |
それと分かる。昔、この地で人参の栽培を手伝っていたから、今でも時々訪れることがあ |
る。当時に比べると人参畑はずいぶんと減ったものだ。 |
この地方では、収穫する時期になるとスーパーマーケットや道の駅で掘り取られたばか |
りの人参がたくさん売られている。それらは1、2年生の細いものから、中位の3、4年生、 |
そして太くて大きな5、6年生のものまで様々である。 |
ところが驚いたことに、中国産の薬用人参も売られていたのである。日用雑貨なら中国 |
産もそこいらに一杯あるから驚くこともないが、とうとう人参の産地へ薬用人参までがや |
ってきたので驚いたのである。中国産であることの記載がないと一見、見ただけでは国内 |
産も中国産も見分けがつかない。中国産の価格はもちろん国産品よりかなり安い。消費者 |
はいったいどちらの商品を選ぶのだろうか。こんな安い人参が出回ると、もうこの土地で |
薬用人参を作る人がいなくなるのではないかと心配する。 |
スーパーに並んでいた薬用人参 | 中国産人参 | |
薬用人参の栽培は、一度作った畑で数年の間は人参を作れないとも言われてきた。厭地 |
のためである。しかし人参を鉢植えにして、ちょっと栽培を楽しむことは、既に実証して |
いるからできると思う。 |
春先、土を割って力強く新芽が出てくる様子はなかなかのものである。やがて葉を広げ、 |
茎の先に小さな白い花が咲く。そして実をつけ、やがて色づく。赤い実を付けた人参の鉢 |
植えは、室内で観葉植物としても十分楽しめる。 |
ちょうど薬用人参の苗が手に入れやすい今月に、 | |
鉢植えを作って栽培を楽しんでみよう。 | |
準備するものは大きな植木鉢、できれば6〜10号 | |
程度の焼き物の鉢がよい。人参を10号の駄温鉢で作 | |
っているが、毎年、毎年、花を咲かせて実をつけて | |
くれる。 | |
培養土はできるだけ雑草の種子や雑菌 |
のない清潔な土が良い。それで市販の赤玉土、鹿沼土、それ | |
に日向土を混合した物にピートモスか腐葉土をほんのわずか | |
に加えて使っている。この混合した培養土を篩であらかじめ | |
大粒と小粒との2種類に分けておく。 | |
まず鉢底ネットを入れて、大粒の培養土を四分の一ほど入 | |
れる。人参を手に持って鉢の適当な位置に置いてみて、芽の | |
先が土の表面からわずかに下に来るようにする。周りに小粒 | |
の培養土を入れて行き、さらに鉢の縁まで残りの培養土を加 | |
える。 |
鉢底を軽く床に打ちつけて培養土を落ち着かせる。すると土の表面が鉢の縁からわずか |
に下がって、水やりの空間ができると鉢植えのでき上がりとなる。このように植える方法 |
は他の植物とちっとも変わらないが、置き場所に工夫がいる。 |
生産地での栽培方法を見ていると、藁で囲いはされていても、一方は空いていて、人参 |
に朝のわずかな時間だけ日が当たるようになっている。それで鉢植えの置き場所はできる |
だけ似た環境になるような、木の下などの明るい日陰が良い。なければダイオネット等の |
遮光材で直射光が当たらないように遮光してやればよい。 |
庭の片隅で栽培棚を作って、周りを遮光率50%のダイオネットを張り、その下で山野 |
草の鉢植えとともに人参を栽培しているが、毎年、花が咲き、実も付ける。ところが数年 |
間、植え替えないでそのままにしておいたら、どうしたことか人参の根は横へ横へと長く |
伸びてしまった。 |
薬用人参は秋になれば地上部が枯れてしまう。しかしその時にはすでに茎の横にはちゃ |
んと来年の芽ができている。毎年、春に出た芽の痕が残るから、その数を数えれば何年物 |
の人参だということが分かる。 |
鉢植えにして観葉植物として楽しんだ後は、掘り上げて鍋ものに入れたり、お茶にして |
利用してみるのがよい。これで薬用人参の栽培と味を知ることができる。 |
(2011年10月1日) |