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栽培こよみ 第45回

 
 ヤクヨウニンジン(薬用人参) ウコギ科
 
 薬用植物の王様とも言われる薬用人参は、薬草の中で最も研究されている植物であろう。
そんな薬用人参の収穫や植え付けの時期は、ちょうど今頃になる。
 長野県の上田から佐久にかけての地域は、古くから薬用人参の生産地として知られてい
る。車で走っていても、人参の栽培が独特の形をした藁屋根の下で行われるから、すぐに
それと分かる。昔、この地で人参の栽培を手伝っていたから、今でも時々訪れることがあ
る。当時に比べると人参畑はずいぶんと減ったものだ。
 
 この地方では、収穫する時期になるとスーパーマーケットや道の駅で掘り取られたばか
りの人参がたくさん売られている。それらは1、2年生の細いものから、中位の3、4年生、
そして太くて大きな5、6年生のものまで様々である。
 ところが驚いたことに、中国産の薬用人参も売られていたのである。日用雑貨なら中国
産もそこいらに一杯あるから驚くこともないが、とうとう人参の産地へ薬用人参までがや
ってきたので驚いたのである。中国産であることの記載がないと一見、見ただけでは国内
産も中国産も見分けがつかない。中国産の価格はもちろん国産品よりかなり安い。消費者
はいったいどちらの商品を選ぶのだろうか。こんな安い人参が出回ると、もうこの土地で
薬用人参を作る人がいなくなるのではないかと心配する。
 
スーパーに並んでいた薬用人参
    スーパーに並んでいた薬用人参
 
中国産人参
  中国産人参
 
 薬用人参の栽培は、一度作った畑で数年の間は人参を作れないとも言われてきた。厭地
のためである。しかし人参を鉢植えにして、ちょっと栽培を楽しむことは、既に実証して
いるからできると思う。
 春先、土を割って力強く新芽が出てくる様子はなかなかのものである。やがて葉を広げ、
茎の先に小さな白い花が咲く。そして実をつけ、やがて色づく。赤い実を付けた人参の鉢
植えは、室内で観葉植物としても十分楽しめる。
 
薬用人参の芽
 
 ちょうど薬用人参の苗が手に入れやすい今月に、
鉢植えを作って栽培を楽しんでみよう。
 準備するものは大きな植木鉢、できれば6〜10号
程度の焼き物の鉢がよい。人参を10号の駄温鉢で作
っているが、毎年、毎年、花を咲かせて実をつけて
くれる。
 培養土はできるだけ雑草の種子や雑菌
のない清潔な土が良い。それで市販の赤玉土、鹿沼土、それ
薬用人参
 
に日向土を混合した物にピートモスか腐葉土をほんのわずか
に加えて使っている。この混合した培養土を篩であらかじめ
大粒と小粒との2種類に分けておく。
 まず鉢底ネットを入れて、大粒の培養土を四分の一ほど入
れる。人参を手に持って鉢の適当な位置に置いてみて、芽の
先が土の表面からわずかに下に来るようにする。周りに小粒
の培養土を入れて行き、さらに鉢の縁まで残りの培養土を加
える。
 鉢底を軽く床に打ちつけて培養土を落ち着かせる。すると土の表面が鉢の縁からわずか
に下がって、水やりの空間ができると鉢植えのでき上がりとなる。このように植える方法
は他の植物とちっとも変わらないが、置き場所に工夫がいる。
 
 生産地での栽培方法を見ていると、藁で囲いはされていても、一方は空いていて、人参
に朝のわずかな時間だけ日が当たるようになっている。それで鉢植えの置き場所はできる
だけ似た環境になるような、木の下などの明るい日陰が良い。なければダイオネット等の
遮光材で直射光が当たらないように遮光してやればよい。
 庭の片隅で栽培棚を作って、周りを遮光率50%のダイオネットを張り、その下で山野
草の鉢植えとともに人参を栽培しているが、毎年、花が咲き、実も付ける。ところが数年
間、植え替えないでそのままにしておいたら、どうしたことか人参の根は横へ横へと長く
伸びてしまった。
 薬用人参は秋になれば地上部が枯れてしまう。しかしその時にはすでに茎の横にはちゃ
んと来年の芽ができている。毎年、春に出た芽の痕が残るから、その数を数えれば何年物
の人参だということが分かる。
 鉢植えにして観葉植物として楽しんだ後は、掘り上げて鍋ものに入れたり、お茶にして
利用してみるのがよい。これで薬用人参の栽培と味を知ることができる。
 

(2011年10月1日)