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歳時記


ジャノヒゲ

 2013年の干支は「癸巳」です。巳には動物として蛇があてられています。蛇というと、体が異様に長い、毒を持っている、獰猛な性質など悪い印象が強く、愛着がある動物とはいえないのではないでしょうか。一方で、蛇は、神様の使いや幸運のシンボルとされることもあり、人間にとって、生活と深い関わりがあり、大切な動物でもあります。
 
 身の回りにある植物には、そのような蛇を名前に取り入れたものが多くあります。ジャノヒゲもそのひとつです。ジャノヒゲの葉は、根元から叢生し、長さ20〜30cm、幅2〜3mmと非常に細長く、その様子が蛇の髭に見えることから和名がついたといわれています。しかし実際には蛇に髭はありません。『古典の植物を探る』という書籍によると、ジャノヒゲは古くは「ヤマスゲ」の名で万葉集に詠まれ、江戸期の書物には「ジョウガヒゲ」と記されていたそうです。この「ジョウ」とは、白い髭を生やした能面の尉、すなわち老翁のことで、植物の葉が、翁の髭に似ていることから名づけられ、そして、「ジョウ」の「ヒゲ」から「ジャノヒゲ」に転じたのではないかと推測されています。
 
 ジャノヒゲは、生薬「麦門冬」の原植物で、その根の膨らんだ部分が生薬として使用され、「麦門冬湯」などの処方に配合されます。日本、中国では、ジャノヒゲの根が使用されますが、韓国では原植物が異なり、ヤブラン、コヤブランの根が用いられます。
 
 話題を蛇に戻しますと、こちらもまた薬用として重要で、生薬には、反鼻、白花蛇、蛇退皮などがあげられます。また、西洋ではアスクレピオスが医神とされ、その手に握られた杖には蛇が巻き付いています。この「アスクレピオスの杖」は医学の象徴とされており、世界保健機関(WHO)のマークにも描かれています。このように蛇は医学、薬学と関わりが深い動物でもあります。この蛇の年が、皆様にとりまして、健康で穏やかに過ごすことができる年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。
 
 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
 
 
 

(掲載日:平成25年1月1日)