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歳時記


ナツメ

 今年も秋の収穫の時期が到来しました。様々な樹木に果実が実り、りんご、なし、ぶどう、柿など美味しい果物が出回ります。生薬の中で、果実を用いる代表格にあげられるのは、大棗ではないでしょうか。大棗はナツメの果実を乾燥したもので、葛根湯、補中益気湯や六君子湯など数多くの漢方処方に配合されています。
 
 中国ではナツメは重要な果樹でもあり、果実は薬用以上に、食用として大量に消費されています。ナツメは9月中旬から10月にかけて収穫のピークを迎え、産地では収穫したナツメを天日乾燥する様が、あたかも赤い敷物を広げたような光景になると聞きます。旬の時期には生で果物として食べ、乾燥あるいは砂糖漬けにした加工品は一年を通して出回り、高い人気があります。
 
 一方、日本にもナツメは古くに渡来しました。ところが、日本では果樹としての栽培化は発展せず、庭や畑の片隅などで観賞用、自家用として植えられる程度です。ご年配の方の中には、懐かしいおやつとして記憶に残っている方もいらっしゃるようです。残念ながら、現在の日本では、中国とは事情が異なり、ナツメの果実は一般には青果市場には出回らず、飛騨地方など一部の地域において、甘露煮などにして食する習慣があるのみです。
 
 以前、中国へ出かけた際に、若い女性が、貧血予防になるからと、ナツメの果実の砂糖漬けをおやつ代わりに食べているのを見かけました。また韓国では、ナツメの果実で作ったテチュ茶がしばしば飲まれます。今後は日本でも、ナツメが、生薬大棗としてだけでなく、食材として見直されても良さそうに思われます。
 

(掲載日:平成26年10月1日)