日本薬局方(日局、第18改正)に「オウバク(黄柏):PHELLODENDRI CORTEX」と収載され、本品はキハダPhellodendron amurense Ruprecht又はPhellodendron chinense Schneider (ミカン科Rutaceae)の周皮を除いた樹皮であると記載されて、漢方では健胃・止瀉薬ならびに外用薬として用いられる生薬です。性状は板状又は巻き込んだ半管状の皮片で、外面は灰黄褐色~灰褐色で、多数の皮目の跡があり、内面は黄色~暗黄褐色で、細かい縦線を認めて平滑で、折面は繊維性で黄色が濃く鮮やかで、僅かににおいがあり、味は極めて苦く、粘液性で、唾液を黄色に染めるものが良品とされます。コルク層の去り方の不十分なものは劣品で、皮の薄いものにはベルベリン含量が不足することがあるので注意が必要です。本品は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、ベルベリン[ベルベリン塩化物として]1.2%以上を含むものと規定されています。同局方には、オウバクを粉末とした「オウバク末(黄柏末):PHELLODENDRI CORTEX PULVERATUS」も収載されており、ベルベリン含量は同じく1.2%以上を含むとなっています。和名のキハダは、樹皮の内側が黄色いことから「黄色い肌」に由来し、漢字は黄檗、黄柏、黄肌とも書かれます。
黄柏は『神農本草経』の中品に「蘗木(ばくぼく)」の名で収載され、「味苦寒。五臓、腸胃中の結熱、黄疸、腸痔を主る。洩痢(せつり:下痢)を止める。女子の漏下(ろうげ:子宮出血)赤白、陰傷蝕瘡・・・」と記載され、また『名医別録』には「驚気が皮間にあって肌膚熱し赤起するもの、目熱赤痛、口瘡。久しく服すれば神に通じる」と記載されています。すなわち、性味は苦・寒、帰経は腎・膀胱・大腸で、清熱し湿を除く、炎症を鎮め解毒する効能があるので、暑さによる下痢、単純性下痢、糖尿病、黄疸、下半身麻痺、夢精、遺精、膀胱炎、痔、出血を伴う帯下、目の充血性腫痛、口内炎などに用いられます。
成分としてはアルカロイドのベルベリン、パルマチン、マグノフロリン、苦味トリテルペノイドのオウバクノン、リモニンのほか、タンニンや粘液質などが含まれ、ベルベリンや黄柏エキスには抗菌・抗炎症・中枢抑制・血圧降下・健胃・止瀉作用などが知られ、粘液質やタンニンには収斂・消炎作用があります。
漢方では「下焦の湿熱」の症状に対して抗炎症・清熱効果があるため、配合応用として、黄柏+黄連は湿疹、痔出血、膀胱炎、帯下、陰部腫痛、打撲による腫痛、口内炎、目の充血を治す「黄連解毒湯」、黄柏+連翹は皮膚・鼻・目の炎症を治す「荊芥連翹湯」、黄柏+白頭翁は細菌性・アメーバ性の下痢を治す「白頭翁湯:はくとうおうとう」、黄柏+山梔子は黄疸症状があり排便はあるが尿利のやや悪いのを治す「梔子柏皮湯」、黄柏+知母は肺結核や慢性気管支炎などの消耗性疾患における発熱(虚熱)を治す「滋陰降火湯」があります。また、黄柏+鬱金は化膿症や打撲傷などに外用する華岡青洲考案の「中黄膏」に応用されます。さらに、黄連解毒湯に「四物湯」を合方した「温清飲」は皮膚の炎症が強く貧血などが生じた血の道症や更年期症状、神経症などに用いられ、黄柏+黄耆・釣藤鈎に四物湯を加味した「七物降下湯」は高血圧に伴うのぼせ、肩こり、耳鳴り、頭重に用いられます。このように、黄柏は健胃・消炎・清熱を目標にした漢方処方に配合されています。
一方、古来より日本各地で黄柏を主成分とする民間薬が多くあり、奈良の陀羅尼助(だらにすけ)、信州の百草(ひゃくそう)、山陰の練熊(ねりくま)、あるいは「正露丸」などが胃腸薬として有名です。また、胃炎・急性腸炎・腹痛・下痢などの健胃整腸の目的以外に、黄柏末を同量の小麦粉と合わせて酢で練って打ち身・捻挫・リウマチ・関節炎などの炎症性疾患の冷湿布薬として、また煎液を結膜炎の点眼薬や口内炎、扁桃炎や歯痛のうがい薬として用います。アイヌ民族は熟した果実を香辛料として利用してきたそうです。
キハダは日本全土から朝鮮半島、中国北部、アムール地方に分布する雌雄異株、対生葉序で奇数羽状複葉の落葉高木で、樹皮内皮は古くから薬用のほかに黄色染料としても用いられてきました。この染料には防虫作用もあるため、長期間保存する必要がある経典、戸籍帳、薬物書、医方書などの紙を染色するのに使用され、中国では歴代皇帝の公式文書は黄柏で染めた黄紙が用いられました。我が国でも黄柏で染色された写経用紙が正倉院や薬師寺に残されています。
キハダは収穫時期を迎えるまでに15~20年の年数がかかります。また、ベルベリン含量は採集時期、採集部位によって異なり、根に近い幹皮は含量が高く、幹に近い根皮はさらに高いことが知られています。長い時間をかけて育った樹木が伐採され、樹皮を剥がして内皮の鮮黄色の部分を日干し乾燥して生薬に加工されます。黄柏に限らず当帰や黄連などの国内の生薬資源を維持し、活用するためには農業・環境・医療分野の連携が重要であると考えられます。
