日本薬局方(日局、第19改正)に「ヨクイニン(薏苡仁):COICIS SEMEN」と収載され、基原はハトムギCoix lacryma-jobi Linné var. mayuen Stapf (イネ科Gramineae)の種皮を除いた種子と記載されて、漢方では利水薬として用いられる生薬です。性状は卵形~広卵形を呈し、白色大粒で質は堅く、両端はややくぼみ、腹面中央には縦に深い溝があり、弱いにおいがあって、味は僅かに甘くて歯間に粘着するものが良品とされます。同じく、粉末にした「ヨクイニン末」も収載されています。
『神農本草経』の上品に収載され、その薬効は「筋急し拘攣して屈伸ができないもの、風湿痺を治し、気を下すを主る」と記されており、また『本草綱目』では「脾を健にし、胃を益し、肺を補し、熱を清し、風を去り、湿に勝つ。飯として炊いて食べれば冷気を治し、煎じて飲めば小便熱淋を利す」と記されて、主治の他に穀物として粳米と共に粥(薏苡仁粥)に煮て毎日食べると良いなどと述べられています。『中薬大辞典』にはヨクイニンはジュズダマ(C. lacryma-jobi L.)の種仁と記され、ハトムギはその変種であると説明し薬用としては区別していません。薏米(よくべい)、苡仁(いにん)などとも呼ばれており、便秘のものや妊婦は服用に注意することも記されています。
成分としてはデンプン、タンパク質、脂質、多糖類のほか、カリウムや鉄分などのミネラル、フィトステロールのカンペステロールやスティグマステロール、ビタミンB1・B2、脂肪酸エステルのコイキセノライドなどを含みます。抽出物に収縮血管拡張、子宮収縮・腸管収縮・骨格筋収縮の抑制、血糖・血清カルシウム量低下、抗腫瘍作用があり、コイキセノライドに抗腫瘍作用が認められています。
性味は甘・淡、微寒で、薄い重湯のような穀類独特の味でやや甘味を感じます。帰経は脾・胃・肺で、利水・袪風湿・清熱・排膿・健脾の効能があるので、漢方では下痢、浮腫、関節痛、筋肉痛、脚気、肺化膿症、虫垂炎などに用いられます。一般にはそのまま用いますが、健脾・止瀉には炒ったものが用いられます。
配合応用としては、利湿を目標に関節リウマチなどで関節や筋肉が腫れて痛むときには麻黄・杏仁などと配合する(麻杏薏甘湯)、やや慢性化した関節痛や関節腫脹などには蒼朮・桂皮などと配合する(薏苡仁湯)、下肢が腫れて痛み、しびれ感や運動障害のみられるときには黄柏・蒼朮・牛膝を配合する(四妙散)、また排膿を目標に化膿性疾患に用い、虫垂炎などで腹が痛み、食物が摂れないときに冬瓜子・桃仁などと配合する(腸癰湯)、肺化膿症などで膿性痰などのみられるときには桔梗・桑白皮などと配合する(桔梗湯)、さらに消化不良で食欲がなく、慢性的な下痢が続くときには人参・茯苓・白朮などと配合する(参苓白朮散)などがあり、鎮痙・利尿・止瀉・排膿を目標とした漢方処方に配合されています。
日本の民間療法では、疣(イボ)取りの妙薬として有名で、疣や水疣には1日量10〜20gを単味で煎じて飲む、あるいは同量の木賊(もくぞく:トクサ科のトクサの茎)と共に煎じて常にお茶のように飲むと効果があるといわれます。この効用については中国の古典には全く記されていませんが、江戸時代に貝原益軒が『大和本草』の中で、疣取りや母乳を増すといった民間療法を記載したのが最初の記述です。また、煎じて飲むと美肌や滋養強壮、さらに浮腫や高血圧、母乳不足にも良いといわれます。薏苡仁1日量10~30gを水500mLで約半量まで煎じて3回に分けて服用するか、粉末1日2~4gを服用しても良く、またハトムギ茶を1日量15~30gを煎じて飲むこともできます。
ハトムギはジュズダマの栽培型で、東南アジア原産の一年草です。中国には後漢の時代にベトナムから伝わり、日本へは7~8世紀に中国から薬材として渡来しました。我が国で栽培されるようになったのは江戸時代(享保年間)以降で、近年では新品種が開発されて水田転換作物として広く栽培が進められています。一方、帰化植物として野生化している多年草のジュズダマの種仁は、日本では川穀(せんこく)といい、薏苡仁の代用として用いられることもあります。
一般に種皮を付けたまま乾燥したものをハトムギ(鳩麦)と呼びますが、その由来はハトが好んでその実を食べることから明治以降に付いた名前といわれています。また、たくさん収穫できることからハットムギ(八斗麦)と呼び、それがハトムギになったともいわれます。炒ったものはハトムギ茶として飲用されています。薏苡仁の薏とは、ハスの実の中身を意味し、ハトムギやジュズダマの果実をハスの実に喩えたものですが大きさは異なります。
近年では、ヨクイニンは穀物としての価値も高く評価されており、お粥として食べると体の筋がこわばるのを治し、また糖尿病にも良いとされていて、料理に使用して食べる人も増えています。古来より粥飯などにして食べているので毒性は少ないものと思われます。
