カラスビシャク サトイモ科
 
 農家の畑の片隅にカラスビシャクを見つけた。しばらく眺めていたら、「ほし
いならいくらでも持って行っておくれ、雑草なのだから」という声。
 カラスビシャクは地方によって「へそくり」などという名をつけられていて、
畑のカラスビシャク
    畑のカラスビシャク
何でもその昔、じいちゃんばあちゃんがこの球を
集めて業者へ売って小銭を貯めたという、いわゆ
るへそくりをしていたからついた名だと聞いた
ことがある。それもいつの時代のことか、今では
畑の邪魔者扱いにされていて、とうとう雑草に分
類されてしまったようだ。この畑では誰もカラス
ビシャクを掘らないから、増えて増えて困るそう
である。

 
 カラスビシャクはサトイモ科の植物で、とても繁殖力が旺盛で、種から増え
るし、球の周りには小球ができて増えるし、葉柄の中ほどにできるムカゴから
も増える。一度庭へ植えつければ翌年からはどこからか顔を出してくれるほど
丈夫な植物である。それで栽培は至って簡単、仏炎苞を持った花が面白いから、
鉢で栽培してみるのもよいだろう。多量に増やしたいのであれば組織培養の方
法を用いると、葉っぱの一欠片があれば、それこそ何百倍にも増やすことがで
きる。
 
 カラスビシャクの栽培は今頃か、春先に植え付
葉の形いろいろ
  葉の形いろいろ
けるが、鑑賞のために栽培を楽しむのであればい
つでも見つけた時に植えてもよいと思う。
 畑や道端でカラスビシャクを見つけるにはち
ょっと気を付けなければならないことがある。そ
れは生育段階によって葉の形がいろいろである。
小さな幼苗は葉が一枚であるが、成長すると三枚
の大きな葉を展開する。
 また、球茎が土深くに潜っていることがあり、掘り取るときには慎重に掘ら
ないと葉柄がすぐに切れてしまう。もし切れてしまったものでも球茎だけ植え
ておけば、やがて芽を出してくれる。
 
 鉢植えにするには3寸ほどの大きさの鉢と培養土を準備する。市販の園芸培
養土か、この欄でいつも使っている赤玉土、鹿沼土、日向土を等量混合した培
養土がよい。まず鉢底穴へネットを敷き、大粒の培養土を鉢の4分の一程まで
入れておく。その上に小粒の培養土を少し入れて球茎を置く。掘り出したばか
りのものは、土の中に入っていた葉柄の部分が白くなっているだろうから、そ
の部分が土中へ埋まるように植える位置を調節する。
 大きな球であれば1球でもよいが、球を幾つか寄せ植えにしても葉がたくさん
出て賑やかでよい。さらに培養土を鉢の縁まで入れて、鉢底を床に軽くトント
ンと打ち付ければ、土の表面が下がって適度の位置に落
ち着く。
掘り出した草姿
  掘り出した草姿
 
庭植えにしたものではほとんど管理がいらないが、鉢
植えにしたときは水やりを忘れないように、そして春頃
に緩効性の肥料を鉢の縁へ少量与えておくとよく増える。
 
 鉢植えに蕾がでてきて花の咲くのを楽しみにしていた
ら、一夜の内に葉を全部虫に食べられてしまった。カラ
スビシャクの葉は柔らかくて美味しいらしい。しかし心
配は無用、しばらくそのままにしていたが、すぐに株も
とから新しい葉を伸ばしてくれた。
 鑑賞目的であればオルトラン粒剤などの殺虫剤を少量、株の周りに散布してお
花をつけたオオハンゲ
    花をつけたオオハンゲ
くのも害虫予防によい。
 カラスビシャクの仲間にオオハンゲがある。カ
ラスビシャクを大きくしたもので、こちらも同様
に栽培できる。
 
 生薬の半夏は カラスビシャクの球茎を乾燥し
たもので、漢方薬として重要な植物である。

(2010年11月1日)