朝顔につるべとられてもらい水 千代女(1703〜1775)

この句からは、アサガオがつるべにまきついて旺盛に伸びていく様子とともに、朝の忙しい時間にアサガオをそっとしておいてもらい水をするという、ほのぼのとした情景が目に浮かびます。現在では井戸を目にする機会は減ってしまいましたが、アサガオは誰もがよく知っている植物です。

朝顔

アサガオの種子は『名医別録』の下品に「牽牛子」として収載され、主に利尿、殺虫をかねた峻下剤として下半身の水腫、尿閉症などにも用いています。「牽牛子」の名称の由来について、陶弘景は「この薬は農民の間で用い始めたもので、薬の謝礼に牛を牽いて往ったというところから、このような名称が起こったのだ」といっています。

日本では民間的に葉を虫さされの薬として用いています。志賀直哉(1883〜1971)も利用していたようで、随筆『朝顔』の冒頭には「私は十数年前から毎年朝顔を植ゑてゐる。それは花を見る為めよりも葉が毒虫に刺された時の薬になるので、絶やさないやうにしてゐる。蚊や蟆子(ぶよ)は素よりムカデ(むかで)でも蜂でも非常によく利く。葉を三四枚、両の掌で暫く揉んでゐると、ねつとりとした汁が出て来る。それを葉と一緒に刺された個所に擦りつけると、痛みでも痒(かゆ)みでも直ぐ止り、あと、そこから何時までも汁が出たりするやうな事がない。」とあり、実際に使用していた様子がよく伝わってきます。

朝顔      朝顔

今年もアサガオが咲く季節がやってきました。あちらこちらの庭先でいろいろなアサガオが私たちの目を楽しませてくれることでしょう。アサガオは今も昔も人々の暮らしに密接に関わりのある植物だといえます。