春が巡ってくると楽しみなのがお花見です。唱歌『朧月夜』に、「菜の花畑に入日薄れ、見渡す山の端霞深し…」と歌われるように、菜の花畑は、春を代表する花の風景です。菜の花のお花見は、晴れやかな桜とはまた異なり、懐かしく温かな気持ちにさせてくれるように思います。菜の花はひとつひとつは小さな花ですが、離れたところから見た光景は、一面に黄色い絨毯を広げたようで幻想的です。

菜の花は、1種類の植物を指すのではなく、アブラナ科アブラナ属植物(Brassica)の総称です。河川敷などでみられる菜の花の群落は、アブラナ、セイヨウアブラナ、カラシナなどからなり、また野菜としてなじみ深いカブ、ハクサイ、コマツナ、ノザワナなども菜の花の仲間です。代表的な菜の花はアブラナで、その種子からはナタネ油が採取されます。日本では、明治時代以降、油収量がより高いセイヨウアブラナが導入され、現在では本種が主に栽培されています。セイヨウアブラナは、葉に蝋がついて白くなることでアブラナと区別することができます。

アブラナ属植物で、薬用として挙げられるのは、カラシナで、その種子が生薬「芥子」として用いられます。また、カブは本草書では『名医別録』に「蕪菁」として「五臓を利し、身を軽くし、気を益す。長く食べるのがよい。種子は目を明らかにする」と記されています。日本の民間療法では、カブの根の汁を、咳や腹痛の治療に服用する、しもやけなどに外用する方法が知られています。またナタネ油は、『日本薬局方』に収載され、製剤の基剤に用いられています。

冒頭の『朧月夜』の舞台とされる長野県飯山市では、ノザワナの菜の花畑を楽しむことができるそうです。菜の花畑は、地域や場所により異なる植物から構成されています。今年の菜の花畑のお花見では、遠くから全体を眺めるだけでなく、植物の近くに寄って、それぞれの菜の花の特徴をじっくりと観察してみたいと思います。