端午の節句は、鯉のぼりを飾り、ショウブ湯に入るなど、今の日本では、こどもの成長を願う日となっています。端午の行事は、もとは中国で始まり、厄を祓う意味合いが強いものでした。古代中国の年中行事を記した『荊楚歳時記』には「五月五日、之を浴蘭節と謂う。四民並びに蹋百草の戯あり。艾を採りて以て人をつくり、門戸の上に懸け以て毒気をはらう。菖蒲を以て、或いはきざみ或は屑とし以て酒にうかぶ」と記されています。

日本に伝来した後の端午の節句の様子は、平安時代の『枕草子』に描かれています。宮中から民家まで、ショウブやヨモギを家の軒に挿し、邪気を避けようとしていた様子がうかがえます。現代では端午の節句の植物といえばショウブですが、ヨモギもショウブとともに香りが強いことから、邪気を祓う力があるとして端午の節句に欠かせない植物とされてきました。

端午の節句に食す和菓子といえば、粽ですが、草餅や草団子も春の到来の喜びを感じさせるものです。ヨモギの若葉を混ぜ込んで作る草餅や草団子は、鮮やかな色とともに独特の爽やかな香りを楽しむことができます。春先にヨモギの若葉を食すことには、邪気を避ける目的も含まれていたようで、『和漢三才図絵』には、「艾の嫩葉を摘んで、米粉に和し草の餅を作ることを、上巳の日の恒例と和漢共に為す。一切の悪気を避ける事に拠る」とあります。

ヨモギの葉は、生薬「艾葉」として用いられます。また、ヨモギの葉の裏にある綿毛を集めてお灸に使うもぐさが製造されます。中国の本草書である『図経本草』には「三月三日、五月五日に葉を採って暴乾する。久しく歳月を経たふるいものがよい」とされ、李時珍は「新鮮な艾を灸に用いると筋脈を傷つける」と記しています。ヨモギは香りが尊ばれるものですが、ヨモギから製したもぐさは、意外なことに、年数を経て古くなったものを用いた方がよいと本草書には記されています。