3月を象徴する色の一つは、桃色ではないでしょうか。ひな祭りが行われる3月3日は、旧暦ではちょうどこの頃にモモの花が咲くことから、桃の節句とも呼ばれます。ひな人形の傍らには、モモの花が飾られ、菱餅や、雛あられにも桃色があしらわれています。

この季節は、モモだけでなく、ウメ、サクラ、アンズなどのバラ科樹木の花が見ごろを迎え、その中の一つにスモモがあります。スモモはモモに果実の形が似ていて、味が酸っぱいことから名づけられたといわれます。モモは3月から4月にかけて薄い淡紅色の花を開き、一方、スモモの花弁は白く、モモよりやや早く開花します。

モモの種子は生薬「桃仁」として用いられます。桃仁は日本薬局方に収載される重要な生薬で、桂枝茯苓丸などの繁用処方に配合されます。また、日本の民間療法では、モモの葉を浴湯剤として用いると、あせもなどによいとされます。一方、スモモは、根の皮を生薬「李根皮」と称し、『金匱要略』出典の「奔豚湯」に配合して用います。本草書には、果実、種子など他の部位も薬にすることが書かれています。

中国では、古来、師が育てた優秀な人材を「桃李(モモとスモモ)」に喩えてきました。「桃李不言下自成蹊」とは、徳のある人物であれば自然とその徳を慕って多くの人が集まるという言葉です。また、「桃李満天下」とは、立派な弟子たちを多く育てたという、先生に対する尊敬を表す言葉として使われます。この時期は、卒業、就職、入学と、学生たちが先生のもとから巣立ち、そしてまた新しい学生が入門する頃です。モモやスモモは、このような時期に、ふさわしい植物でもあります。