漢方医学では陰陽五行の考え方があります。春は、五行では「木」に属します。「木」には五色の中の「青(蒼)」が、方位を表す五方は「東」が属します。一方、四方を守護する四神では、東方の守護神は「青龍」です。麻黄は青龍にあたる生薬で、『傷寒論』に収載されている小青龍湯、大青龍湯は麻黄を配合した処方です。

麻黄はマオウ科のマオウ属植物であるEphedra sinicaなどの地上茎に由来する生薬です。マオウ属植物は、中国などの乾燥した地域に自生する植物で、日本には分布しておらず、日本における生薬の需要は、古来、主として中国からの輸入に依存してきました。近年中国では、野生植物の採集により土地が荒廃して砂漠化することや、資源枯渇への懸念などから、麻黄の輸出が規制されています。麻黄は日本での栽培が検討されるなど、話題が多い生薬です。

マオウ属植物は、日本国内では薬用植物園などで観察することができます。木本性の裸子植物で、トクサに似ており、緑色の細い茎の節に、目立たない鱗片状の葉がついています。花の時期は春で、早いところでは4月下旬頃から見ることができます。多くの種で雌雄異株であり、観察する場合には、雄株、雌株の花を見比べてみるのも楽しいものです。

またマオウ属植物は春になると、青々とし新しい茎を伸ばします。中国の自生地では、近年では資源の枯渇が心配されるほどですが、かつてはマオウが一面に広がっていたといわれています。青竜に麻黄をあてる根拠には諸説があるかとは思いますが、春に青々とした新芽を伸ばしたマオウが風になびく様子を青龍にたとえたと考えてみるのもよいのではないでしょうか。