早春のこの時期、真っ先に花を咲かせる樹木には、黄色い花を着けるものが多いように思われます。ロウバイ、マンサク、レンギョウ、サンシュユなどの花は、身近な公園や庭先でもよく目にします。

サンシュユは、ミズキ科の落葉樹で、春に葉を開くより先に、黄色い花を枝いっぱいに咲かせます。近くで見ると、小さい花が 20〜30 個集まる散形花序で、黄色い球のような形をしています。また、少し離れて全体を見てみると、樹木が黄色く包まれているようです。秋になると赤く熟する実がなります。この実は植物学的には偽果とされ、長さ 1.5〜2cm の楕円形で、表面にはつやがあり、中には 1 個の大きな核があります。

この赤い実の果肉が、生薬「山茱萸」であり、八味地黄丸、牛車腎気丸などに配合されています。ところで、生薬「山茱萸」については、中国の魏代の『呉普本草』の記載内容からすると、サンシュユ以外の植物を用いていたのではないかと考えられています。近年の本草考証研究の結果では、バラ科のシナミザクラあるいは類似のユスラウメが中国の初期の本草書の記載内容に最も良く符合し、漢代から魏代にかけての山茱萸であった可能性が高いと考察されています。

サンシュユという植物名は、「山茱萸」の読みからつけられた和名です。一方で、春の黄色い花をつけた様子から、ハルコガネバナ(春黄金花)、また秋の赤く熟す実の様子から、アキサンゴ(秋珊瑚)という別名も持っています。このような親しみのある別名からは、サンシュユが、四季を通じて姿の変化を楽しむことができる花木であること、また人々に好まれていることなどが伝わってきます。