11月には二十四節気の立冬(りっとう)と小雪(しょうせつ)があります。今年は11月7日が立冬、そして11月22日が小雪にあたります。立冬の頃になると、紅葉が山々から里へとおりてきます。また、根や根茎を薬用部位とする生薬の収穫が始まる時期でもあります。11月も下旬になり、小雪の頃には、地域によっては雪が降り始めます。

この時期には、毎年、正倉院展が行われます。今年も奈良国立博物館にて10月28日から11月13日までの期間、第69回正倉院展が開催されます。現在では一年に一度の点検や調査に合わせて開催されているようです。秋は空気が乾燥し、虫干しに適していることも、この時期が選ばれる理由のひとつかもしれません。1200年以上も昔の、天平文化の宝物を間近に見ることができる貴重な機会でもあります。

正倉院は天皇の許可がなければ開けられない勅封(ちょくふう)となっています。勅封が基本ですが、時の権力者であった織田信長が、名高い香木の「蘭奢待(らんじゃたい)」を一目見ようと、正倉院を開けさせて、さらに蘭奢待を切り取ったという史実もあります。現在では宝物は、正倉院の中に保管されておらず、正倉院近くに建てられた鉄筋コンクリート造りの建物の中で、温度、湿度などを一定に保って保管されています。

正倉院の宝物の中には、正倉院薬物も存在します。正倉院薬物は、756年(天平勝宝8年)に、光明皇太后が、崩御された聖武太上天皇を偲び、他の宝物と共に、東大寺の廬舎那大仏に献納されたものであり、当時の生薬が、そのままの状態で現代まで保存されています。正倉院薬物の中には、人参、大黄、甘草、遠志なども含まれており、これらの生薬は、現在の医療における使用頻度が高い生薬でもあります。1200年以上の古も現在も変わることなく、生薬は、私たち人間の健康を守るために、必要な存在となっています。