=老木からとった脆い皮はいけませぬ=

「皮の厚い深黄色の苦いものがよい品で、あまり薄い皮や、淡黄色のものや、老
木からとった脆い皮はいけませぬ。」黄柏について調べるとこのように記載され
ています。果物に食べ頃があるように生薬にも採集適齢期があります。

黄柏では原植物であるキハダ(Phellodendron amurense Ruprecht) が10才になる頃から
が適齢期とされます。その採集は、樹皮を剥がしやすく、ベルベリン含量が高い
梅雨時(適期)に、伐採して樹皮を剥ぐか、あるいは周囲の一部を残して樹皮の
剥離が行われます。そしてさらに、周皮(コルク化した部分)が除かれて、いわ
ゆる“黄柏”として利用されます。このように黄柏では栽培を始めて少なくとも
十年を経てはじめて生薬の原料と成りえるのです。

日本産黄柏の原植物としてはキハダのほか、
オオバノキハダ(P. amurense var. japonicum (Maxim.) Ohwi)、
ミヤマキハダ(P. amurense var. lavallei (Dode)Sprague)、
ヒロハノキハダ(P. amurense var. sachalinense Fr. Schmidt) の3変種があり、
北海道、新潟、富山、長野、岐阜、岡山、広島、鳥取などに産します。

植物は遺伝的要因に加え、生育環境等の影響を受けて個体ごとに形態がかな
り変異しますが、黄柏では一般に寒冷地に産するものは樹皮が薄く、暖地のもの
ほど樹皮が厚いとされます。また中国産黄柏の原植物にはキハダのほか、シナキ
ハダ(P. chinensis Schneid. )やその変種などがあり、このように同じ“黄柏”
であっても実際にはいろいろなものがあることが分かります。

実際に入手した日本産(富山産、新潟産)と中国産(遼寧産、四川産)を比較す
ると次のようになります。

 産 地  厚さ(mm) 断面の色  その他
 富山産  3.5-4.5  鮮黄色  コルク層が残存
 新潟産  3-4  鮮黄色  
 遼寧産  3.5-5  淡黄白色  コルク層が一部残存
 四川産  1-3  鮮黄色  厚さが不均一

黄柏は古くから陀羅尼助(ダラニスケ)などの家庭薬原料として利用されるほか、
ベルベリン抽出原料として重要な薬物です。ベルベリンを含有するものとしては
黄連も有名ですが、黄連が高価であるためベルベリン抽出原料としては専ら黄柏が
利用されます。なお、キハダは粘液を含有するため、黄柏の粉末を指につけ水で
練るとすぐに粘性をだす点で、黄連の粉末と区別できます。

またキハダのベルベリン含量は採集時期、採集部位によって異なり、根に近い幹皮
は含量が高く、幹に近い根皮はさらに高いことがわかっています。
生薬は生き物に由来したものが多く、このように同じ名称の薬物であっても品質
にかなりの幅が認められるということを知っておく必要があるでしょう。

(神農子 記)