=日局“厚朴”は“ホオノキ”の樹皮=

中国ではモクレン科(Magnoliaceae)のカラホウ(Magnolia officinalis Rehd.
et Wils.)及びその変種の樹皮あるいは根皮を乾燥したものを厚朴として利用し
ています。中国産厚朴には、採集部位や形状の違いにより、筒朴、靴角朴、根朴、
枝朴などの種類があり、後記二者は文字通り、根の皮と枝の皮、また筒朴は主幹
の乾皮で加工後二重巻の筒状になったもの、靴角朴は根に近い部分の乾皮です。

中国各地から産出される厚朴ですが、四川省、湖北省産の紫油厚朴および浙
江省産の温朴が良品とされます。

一方、日本薬局方ではカラホウと同属のホオノキ(M. obovata Thunb. )を
コウボクの原植物として規定しています。このホオノキ(朴の木)は日本固有の種
で、枝先に大きな葉が輪生状について傘のようであることから、英語では
“Japanese Umbrella Tree”といいます。ホオノキは樹皮を厚朴として利用する以
外にも、果実を“朴の実”と称して民間薬として利用し、また、その大きな葉を
使って“朴葉味噌”をつくることでも有名です。

カラホウとホオノキは、どちらもMagnolia属の植物でよく似た花をつけます。生
薬厚朴についての知識が中国から日本へ伝播された際、カラホウによく似たホオ
ノキが日本に自生していたことから、日本ではホオノキが厚朴として使われるよ
うになったのでしょう。 現在わが国では、国産のホオノキに由来する厚朴を和
厚朴、中国から局方外生薬として輸入されるカラホウ等に由来する厚朴を唐厚朴
と称して区別します。厚朴は肉厚で潤いがあり香気の強いものが良品であるとさ
れ、この点から一般に中国産の唐厚朴の方が品質がよいとされます。なお、唐厚
朴は切面に結晶(honokiolをわずかに含む不純のmagnolol)を析出する点で和厚
朴と異なります。

このように日本産と中国産の厚朴は同じMagnolia属ながら種の異なる植物に由来
します。また韓国市場には、クスノキ科のタブノキ(Machilus thunbergii
Sieb. et Zucc.)の樹皮からなる代用品もみられ、同じ厚朴であっても、原植物
の異なる種々の商品が市場に出回っていることが分かります。

ある生薬がある地域から他の地域に伝播される際、人の口コミであったり、また
書物による伝播であっても、その記載が曖昧であったりした場合、各地でいろい
ろな植物に由来した異物同名品が使用されるようになります。また実物を伴った
伝播であっても、厚朴の場合のように、たまたまよく似た植物が伝播先の地に生
育していて、そちらの方が容易に入手できる場合には、そのよく似た植物が代用
品として使用されるようになることもあります。

異物同名品が出現する原因には、このようにいろいろなことが考えられ、現在実
際に多くの生薬に異物同名品が存在します。

このような生薬の場合、多くの異物同名品の中で、いったいどの植物に由来する
ものを使うべきなのか、あるいは、どれは使えて、どれは使えないのか、また、
期待する薬効により使い分けるべきものなのか、などいろいろな疑問が生じてき
ます。

これらの疑問を解決していくこと、つまり、ひとつひとつの異物同名品の有用性
を評価していくことは非常に難しい課題です。しかし、これを解決することは、
生薬をより効果的に利用していくために必要なことで、今後、生薬ごとに順次解
明していく必要があるでしょう。

(神農子 記)