=生薬の栽培化=

日本薬局方では大黄の原植物として、タデ科(Polygonaceae)のRheum palmatum
L., R. tanguticum Maxim., R. officinale Baill., R. coreanum Nakaiおよび
それらの種間雑種を規定しています。このように局方中で種間雑種を原植物とし
て明確に規定している理由は、Rheum 属植物はお互いに交配して種間雑種をつく
り易く、現在市場に出回っている生薬の原植物の特定が困難であるからです。

 汎用生薬の一つである大黄の栽培は古くから日本各地で行われてきました。江戸
時代に生薬栽培の奨励によって栽培された和大黄は、R. undulatum L.等に由来す
るもので、錦紋がなく、輸入大黄に比べ品質の劣るものであったため、第7改正
日本薬局方で削除されました。

また昭和の初期には、錦紋系のR. tanguticum,R. palmatum, R. coreanum の種子
が相次いで国内に持ちこまれ栽培が試みられましたが、日本は梅雨から夏にかけて
湿度の高い気候であるため、高山性で寒冷な気候を好むこれらの植物の栽培は失敗に
終わったようです。

現在、北海道で栽培されている信州大黄は、1940年代の終わりから1960年代にかけ
10数年の時間を費やし、栽培適地、育種、育苗などが検討された結果、ようやく生
産としての栽培が確立されたもので、R. coreanum を母種として、R. palmatum との
交配や、戻し交配などを繰り返して発見された種間雑種の1系統であるといわれます。

 中国では大黄を正品大黄と非正品大黄に分類します。正品大黄は、Rheumpalmatum,
R. tanguticum, R. officinaleの根茎あるいは根に由来するもので、非正品大黄
とは、R. nobile, R. emodi など、上記3種以外の Rheum属植物に由来する大黄です。

正品大黄は産地や形質などによって、さらに西寧型大黄、銓水型大黄、馬蹄型大黄など
に分けられ、これらの中で最上級とされるのが錦紋重質系の西寧型大黄です。

大黄はその瀉下活性のおかげで古くからヨーロッパでも注目され、今でも最上級の
重質系大黄が中国からヨーロッパへ大量に輸出されています。

日本では、薬効緩和で腹痛を伴わないことから、古くから主に馬蹄型大黄の一つ
である軽質系の雅黄が輸入されています。

 ところで、最近の報告によれば、正品大黄として中国市場に出回っているものの
大部分は、栽培品の R. palmatumに由来し、ついで野性品の R. tanguticum、そ
してわずかに R. officinaleに由来したものであるということです。

 生薬は天然資源に由来しているため、その資源には限りがあり、需要が大きくな
れば必然的に栽培化ということが検討されてきます。しかし、ひと口に栽培化と
いっても、栽培適種の選抜、育種、栽培適地の選択、育苗法の検討など、大黄が
そうであったように、生産栽培に到達するまでに多くの検討と時間を要します。
また薬用植物の場合、生産物の品質が栽培上の大きな課題となりますが、一つの
生薬であってもいろいろな効能を有すること(例えば大黄は、熱毒を瀉し、積滞
を破り、お血を行らす)などから、品質評価の方法がほとんど確立されておら
ず、これが栽培化の大きな障害となります。近年かなりの種類の生薬について栽
培が研究され、またバイオテクノロジーを応用した生薬中の特定成分の大量生産
なども可能になってきていますが、それらの産物が生薬として、あるいは生薬の
代用品として本当に使えるものなのかどうかについては十分に検討する必要があ
ります。

 現在生薬の約8割が野性品に由来しているそうです。しかし、資源が減少してき
ている今、将来必要になる栽培化に向け、栽培方法の確立と同時に品質評価法や
計画栽培などが研究され、生薬資源の保護と安定供給が並行して発展することが
望まれます。

(神農子 記)