=絶滅の危機に瀕する野生の Saussurea lappa

 木香は『神農本草経』の上品に収載され、芳香性健胃、整腸、利尿薬として、香
砂養胃湯、銭氏白朮散、木香散などの処方に配合されます。また、独特の芳香を
有し、薫香剤としても重用されてきました。

木香の原植物であるキク科のSaussurea lappa Clarke は、ギリシア医学の古典
『ディオスコリデスの薬物誌』にも"KOSTOS"という名称で収載されており、
アラビア産のものが最上で、インド産のものがそれに次ぐと書かれています。
S. lappaの原産地がインドの北部山地であることや、中国では古くから外来品
が使用されていることなどから、元々はアラビア地方で古くから使用されていた
薬物であると考えられています。

 ところで、Saussurea lappa はインド北部のカシミール地方やネパールの山地に
野生する植物で、前述のように古くから薬用あるいは芳香用に用いられてきまし
たが、その一方で、絶滅のおそれの高い種として、ワシントン条約で指定されて
いる貴重な植物です。

 ワシントン条約は正式名称を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引
に関する条約」といい、絶滅のおそれのある野生動植物の保護を目的として、19
75年に発効され、日本は1980年に批准しました。規制対象種は約800種で、
これらを三段階に分類して取引を規制しています。

 ☆規制区分
  Ⅰ:絶滅のおそれの高い種で、商業取引を禁止
  Ⅱ:取引を規制しないと絶滅のおそれのある種
  Ⅲ:自主的な取引規制

 ワシントン条約で取引が規制されている動植物に関係する主な生薬には次のよう
なものがありますが、木香の原植物である Saussurea lappaは最も厳しい規制
区分Ⅰに属しています。

☆ワシントン条約で取引が規制されている動植物に関係する主な生薬(注1)
熊胆、竜涎香、ジャコウ、羚羊角、虎骨、海狗腎、阿膠、犀角、鹿茸、鹿鞭、土鼈甲、広東人参、木香、蘇鉄、大戟、巴戟天(トウダイグサ科Euphorbia属またはラン科に由来するもの(注2))、続随子、アロエ、白キュウ、石斛、天麻など。
 注1:規制の対象は、野生の動植物で、繁殖を含む完全な人工飼育あるいは人工栽培によって得られたものは規制を受けない。
 注2:巴戟天は一般にアカネ科(Rubiaceae)のMorinda officinalisに由来し,この原植物は規制対象ではありません。


 このように生薬は天産物に由来することから、ともすれば濫獲のために原植物
(原動物)を絶滅に追いやってしまう可能性を秘めています。したがって、我々は、
生薬を十分に活用していくのと同時に貴重な天然資源を失わないよう十分配慮
していく必要があります。

 なお、中薬大辞典によれば、現在中国では、Saussurea lappa が雲南、広西、
四川で栽培され、この栽培品に由来する雲木香と、同じキク科のVladimiria
植物に由来する越西木香、川木香などが木香として市場に出回っています。