基源:Digitalis purpurea Linn. キツネノテブクロ(ゴマノハグサ科 Scrophulariaceae)
の葉を乾燥したもの。

ジギタリスはわが国でも強心性利尿薬としてよく知られたヨーロッパ原産の
薬用植物で、日局収載品です。

植物和名のキツネノテブクロは英名の Foxglove の直訳で、これは「悪い妖
精たちが、自分たちの休息場をキツネたちがうろつくときに足音がしないよう
にこの花を履かせた」という伝説に因っています。

ジギタリスは古くからイギリスで民間的に薬用に供されていました。それを
近代医学に取り入れたのは18世紀の医師ウィザリング(William Withering)
です。

彼はシュロップシャー地方である老夫人が極めて効果的に水腫の治療に用いてい
る20数種の生薬からなる民間処方の有効成分がジギタリスではないかと目を付け、
ジギタリスそのものを自分の患者に試用したところ、卓効を得ました。

そこで彼は大勢の医師仲間たちの協力を得て約10年間研究を積み重ね、その結
果を『An Account of the Foxglove, and Some of its Medical Uses(キツネノテブクロ
とその医学的効能に関する記事)』と題して出版しました。1785年のことです。

こうしてイギリスの片田舎の一民間薬が広く世界中に知られるようになったのです。

書物の中でウィザリングは、ジギタリスの生薬としての品質について、根、花茎、
葉、花、種子の各部位を検査した結果、葉が最も薬効が安定していて利用しやすいこ
とを述べ、さらに植物体の発育年数や採取時期によって薬効が大きく異なることを記し、
2年生で花茎が伸び、花が着くころに採取するのが最適であることを示し、かつ葉柄と
中肋とを除き、天火あるいは平鍋の上でとろ火で乾燥させるべきであることを説いてい
ます。

このようにして、生薬を種々の方法で調整し、その薬効的な品質を臨床的に調査研究す
ることにより、それまで事故の多かったジギタリスを正しく利用できるようにしたのです。

生薬の薬効検定はたいへん難しいことです。ジギタリスのようにはっきりとした薬理
効果があるものは行ないやすいでしょうが、一般の生薬とくに漢方生薬のように複合処
方で用いられるものは困難なようです。とは言え、ジギタリスも最初は民間的に複合処
方として利用されていたのです。

他の薬物の配合がジギタリスの毒性を抑えるためのものであったかどうかは別問題とし
て、生薬をより科学的に利用するためには今後もこうした研究の進展が望まれます。

なお、今日ではジギタリスよりも薬効的に優れかつ毒性の少ないケジギタリスが薬用
に多く利用されていること、医療用には活性成分のジギトキシンやジゴキシンが多く利
用されていること、またこれらの純品を使用するよりもジギタリス末を用いる方が副作
用の発現が少ないこと、さらに日本でもジギタリスは園芸植物として庭に植えられ、誤
食によりしばしば重篤な事故が起こっていることなどを付記しておきます。(神農子 記)