基源: 蒼朮は Atractylodes lancea De Candolle ホソバオケラ および
    A.chinensis Koidzumi(=A. lancea De Candolle var. chinensis Kitamura),
   また白朮は A.japonica Koidzumi ex Kitamura オケラ(和白朮) および
   A.ovata De Candolle オオバナオケラの根茎(唐白朮)(キク科 Compositae)の根茎.

オケラとは変わった名前です。
ウケラが訛ったそうですが、その語源ははっきりしていません。

山地の尾根筋の林縁などに多く見られる植物で、余り目立たないため野外
で実際の植物を見た人は少ないと思われますが、若芽は知る人ぞ知る山菜
の逸品です。

薬用としては、晩秋から初冬にかけて、地上部が枯死するころに根茎を採
集します。

繁用生薬である「朮」は『神農本草経』の上品に収載され、陶弘景は朮に
2種類あると述べています。

すなわち「白朮は、葉が大きく有毛で、舐めて甘く膏(油気)が少ない。
赤朮(蒼朮)は、葉が細く小さく、舐めて苦く膏が多い」としています。薬
効的には、ともに健脾(消化器官を健やかにする)、燥湿(体内に滞った水
分を駆逐する)薬としての効能を持っていますが、健脾の力は白朮が優る
とされ、また燥湿の力は蒼朮が優るとされ、それぞれ患者の病態によって使
い分けるのが正しいとされています。

中国におけるそれぞれの原植物は、蒼朮がホソバオケラとシナオケラ、白朮
がオオバナオケラです。両種は同属植物ですが、根茎の形はかなり違ってい
て、一見して区別することが出来ます。また香りもそうとう違っています。

また、蒼朮に特有なアトラクチロール(現在ではヒネソールとβ−オイデス
モールの混合物とされる。)という油成分はしばらく保存された蒼朮の表面
にまるでカビが生えたように析出してきますので、消費者の方から苦情とと
もに返品されてくることもしばしばです。

蒼朮はわが国では一時佐渡で中国から移入されたものが栽培されていました
が、今では市場性はなく、保存目的に栽培されている程度です。

ところが、朝鮮半島ではオケラの根をそのまま乾燥したものを「蒼朮」、外
皮を剥いでから乾燥したものを「白朮」として用いる習慣があり、ひと昔前
、多く朝鮮半島から生薬を輸入していたわが国でも同様に、すなわち同じ植
物の根茎を修治の違いによって(外皮を剥ぐか否かで)使い分けていたわけ
です。

ですからこれらは表面の色こそ違え、白朮も蒼朮も形はよく似ています。

オケラの根茎は成分的には中国産の白朮と共通するものがあり、オケラ由来
のものは白朮として利用するのが適当なようですが、白朮としてオケラとオ
オバナオケラのどちらがより適切であるかは、今後さらに検討の余地がある
ように思われます。

現在の日本市場にはオケラの白朮が主に流通しています。
(オオバナオケラはオケラよりも精油の含有量が少なく局方の規定からはず
れることがある。)一方の蒼朮も産地によってアトラクチロールの含量に随
分と差があり、良質品を入手するのに苦労しています。

さて、歳の瀬も押し詰まってきましたが、京都の八坂神社の白朮(オケラ)
詣りをご存じでしょうか。

大晦日に、心身を清めた権宮司が松材の火きり臼と檜材の火きり杵とをこす
りあわせておこした神火でもって、元旦の寅の刻(午前4時)になると、ヤ
ナギで作った削掛が白朮とともに焚かれます。

芳香性の煙があたり一面にたなびき、昔はこの煙のたなびく方向を見て吉凶
を占ったそうです。

古来白朮には邪気を払う霊力があると信じられてきました。初詣の人々は白
朮が焚かれた煙を吸うことにより一年の無病息災を祈り、またその火を縄に
移して持ち帰り、元旦の雑煮を炊く火種にして一家の無事を祈願するのです。

また、お正月には欠かせないお屠蘇も、本来は、宮中で、邪気を追い払う効
果を持つ薬物を処方した屠蘇散(屠蘇延命散)を四方拝の儀式のあとにお神
酒に浸けて飲み、疫病を除くために祈願したのが始まりとされています。

屠蘇散に白朮が配合されていることは言うまでもありません。

来る年が読者の皆様方にとりまして素晴らしいものになりますよう、お祈り申し上げます。
(神農子 記)