基源:ウンシュウミカン Citrus unshiu Marc.,その他近縁植物(ミカン科 Rutaceae)の成熟果皮(陳皮)、また成熟前の青い果皮(青皮)。

 現在日本で使われている生薬で、100%国内生産品でまかなわれて
いるものは、ごくわずかしかありません。陳皮はその一つです。

 日本ではミカンと言えば通常は小型のミカン類を指し、種類がいく
つかありますが、一般には圧倒的に流通量の多いウンシュウミカンを
指しているようです。

生薬「陳皮」として利用されるのは食用とならない皮の部分ですから、
ジュース加工場の廃棄物が利用できそうですが、実際には機械で剥か
れた皮は組織がこわれ、よい品質の物を得ることができません。

最近では缶詰用つぶミカンを得るために手で剥かれたものが多く集荷
されています。それでも廃棄物に違いありませんので、陳皮は安価な
生薬となっています。

しかし、漢方の本場中国では、生薬を得るためにわざわざ手で皮を剥
いています。剥き方にもいろいろあって、星型になったものは如何に
も薬らしい感じがします。

さらに内側の白い綿のような部分を極力取り去った「橘紅」があり、
良品とされます。白い部分には芳香成分がないために除かれるものと
思われますが、それはそれで「橘白」と称して薬用にしています。こ
うしたところにも日本と本場中国の薬に対する考え方の基本的な相違
があるようです。

 さて、ミカンの原産地は東南アジアで、日本へは中国から九州に伝
わり、実生で偶然に発芽したものから改良が始まったとされています。

ウンシュウミカンの名は中国浙江省の温州に由来することに間違いあ
りませんが、実際には日本で品種改良されてできたもので、中国から
もたらされたものではありません。

中国で陳皮として利用されるのはオオベニミカン C.tangerina(福橘)、
コベニミカン C.erythrosa(朱橘)などですが、品質的には広東省新
会県に産する C.chachiensis(茶枝柑)に由来する「広陳皮」が良品
とされています。

この他、陳皮の原植物は多種に及んでいますが、その薬味が「苦・辛」
であることから、古来口にして苦みや刺激性の強いものが良品とされて
きました。

 陳皮は『神農本草経』の上品収載品で、「橘柚」(きつゆう)の原名で
記されています。別名を「橘皮」(きっぴ)と言い、陳久品ほど薬効が優
れているとされてきたことから、とくに長く保存されたものを「陳橘皮」
といい、それが短縮されて「陳皮」と呼ばれるようになったものです。

そうした基準からすると日本産のものは陳皮とは呼べず、橘皮とするのが
正しいようです。

実際、中国では両者が区別して取引され、陳皮に至っては陳久の程度が年数
で明示されたものもあり、数十年も経ったものは目が飛び出るほど高価なも
のです。香りも一段と優れていますが、さすがに薬用として利用するには高
価過ぎ、薬味としてスープに入れて利用されるのが普通です。

 陳皮は成熟したミカンの果皮ですが、同じミカンの成熟前の青い果皮も
「青皮」と呼んで薬用にされます。陳皮と青皮の効能は似ていますが、陳
皮は「上中二焦に適用し、肺脾の気に入る」とされ、青皮は「中下二焦に
適用し、肝胆の気に入る」とされていますので両者の使いわけが必要です
が、併用されることもあります。

 同じ植物の同じ部分でも、未熟品か成熟品か、また新物か陳久品か、こ
うした違いで薬効にも違いが生じることについては、現段階では科学的な
根拠が示されていません。しかし、示されていないからこそ、現時点では
従来の経験による知識を尊重すべきだと思われます。

(神農子 記)