基源:レンギョウ Forsythia suspensa Vahl.,シナレンギョウ F.viridissima Lindl.
およびチョウセンレンギョウ F.koreana Nakal(モクセイ科 Oleaceae)の成熟果実。

レンギョウの名前は良く知られています。
どこの公園にも植えられ,春になると目立って鮮やかな黄色い花を咲かせます。
あのレンギョウが漢薬の「連翹」だと言われてもうまく両者が結び付きません。
漢薬の連翹は特徴的で,他に間違えるような生薬もなく,一見して果実類生薬と
わかるのですが,公園のレンギョウにはあの特徴的な果実が着いていないからです。

レンギョウは,中国原産の植物です。
生命力旺盛で,枝が垂れて地面につくとそこからまた根が出てやがて独立した
一つの木になりどんどんと周辺に増えていきます。
自家不和合性が強い植物すなわち自家受精ができないので,近くに別の株がない
と結実しません。

但し,公園にたくさん植えられているレンギョウが結実しないのは,実は遺伝的
に同じ物ばかりが植えられているからです。株分けや押し木で容易に増えた株は
すべて遺伝子が同じですから,何株植えても同じことです。結実させるには遺伝
的に異なった株を混植する必要があります。

レンギョウの仲間には数種類があります。
みな早春によく似た黄色い花を咲かせます。
漢薬として利用されるのはレンギョウが多いのですが,中国にはシナレンギョウと
呼ばれる種類があって,同様に利用されますが,品質的には劣るとされます。
日本にも野生種があって,ヤマトレンギョウの和名が付いていますが,結実数が少
ないので生薬の原植物とはなりえません。
朝鮮半島に自生するものはチョウセンレンギョウと呼ばれます。
このものは立派に漢薬「連翹」として通用していますが,やや小型で品質的には次
品とされます。
レンギョウはヨーロッパで品種改良が行なわれ,多くの園芸品種が栽培されています。
これらの種類はみなよく似ていますが,(植物学的な違いはここでは省略します)
植物学的なことは以上で凡そおわかり頂けたと思います。難しいのは生薬学的なこと
です。
実は,漢薬「連翹」としてレンギョウの果実を用いるのが正しいのか否かという重要
な問題があります。
連翹の原植物や薬用部位は古くから混乱しているのです。

連翹は『神農本草経』の下品に収載されたものですが,陶弘景は『神農本草経集注』
の中で「所々にあって今用いるのは茎連花実である」と記しています。続いて蘇敬は
『新修本草』に「連翹には大翹と小翹の二種がある。
大翹の葉は細長くて水蘇(シソ科イヌゴマの仲間?)の様で花は黄色く可愛い。低湿
地に生える。果実は椿(チャンチン)実の未だ開かないものに似て房を作る。他の草
に翹出する。
小翹は岡の上の広場に生え,葉も花も実も皆大翹に似ているが小さくて細い。山南人
(湖南省)は両者を用い,京下(長安)ではただ大翹の実(種子?)のみを用い,茎
や葉は用いない。」と記しています。この文章は一見明快なようですが,種々の解釈
が可能なのです。

一般には大翹にレンギョウ,小翹にオトギリソウ科の植物が充てられていますが,大翹が
トモエソウ,小翹が小型のオトギリソウの仲間とする解釈も可能です。
また植物学的にはトモエソウの中国名(古名)を連翹,レンギョウのそれを黄寿丹とする
のが一般的です。

いずれにせよ,陶弘景の時代(梁)には茎も花も実も用いられていたわけで,明らかに今
と基源が異なっていました。また『傷寒論』の「麻黄連車召芍赤小豆湯」に使用された連
召(連翹の異名:爾雅に記載)は連翹の根とされ,これもレンギョウの根であったかトモ
エソウの根であったか,現時点では明らかにされていません。現在日本市場の連翹はレン
ギョウの成熟果実のみですが,中国ではオトギリソウ科の
連翹(小連翹)も利用されているといいます。

レンギョウの果実に由来する生薬は「黄連翹」「老翹」ともいわれ,現在ではこのものが
正品とされています。
果実が大粒で二分せず,頂部の裂開した辨が大きく,淡褐色から黄色を呈し,殻が厚く種
子がない新しいものが良品とされます。
完熟前の青色の果実を蒸して乾燥したものを「青翹」と呼びますが,日本市場にはありま
せん。古来の正品に関して,今後の研究が待たれる生薬です。

(神農子 記)