基源:ボタン Paeonia suffruticosa Andrews(= P.moutan Sims)〔ボタン科 Paeoniaceae〕の根皮

 ボタンとシャクヤクは花が美しく常に並び称されますが、花がより大きくて
立派なボタンには「花王」の敬称があります。両者は非常によく似ており、ボ
タンのことを「木芍薬」とよぶこともあります。これはシャクヤクが草本植物で
あるのに対し、ボタンは木本植物で、高さ1.5〜2メ−トルほどの灌木になる
からです。原産地は中国西北部で、日本へは奈良時代か平安時代に薬用
として伝えられました。花は単弁と重弁があり、また色も赤、白、紫、黄色な
ど様々があり、非常に美しいため、江戸時代になると栽培が盛んに行われ
るようになり、栽培のための手引き書も数多く出版されました。

 ボタンとシャクヤクは薬用としてもよく比較されます。生薬の「牡丹皮」と「芍
薬」は匂いも似ており、化学成分的にも共通するものがあって、どことなく似
た生薬ですが、ボタンの薬用部位は根の皮ですし、シャクヤクでは根です。
よって牡丹皮は「皮類生薬」であり、芍薬は「根類生薬」に分類されます。
また、薬効的にも前者は駆瘀血薬の代表ですし、後者は鎮痙薬として有名
です。 以上のような理由からして、両者は薬物学的にはかなり異なった生薬
ということになっています。

 牡丹皮は『新農本草経』の中品に「牡丹」の名で収載されました。『名醫別
録』には「根を採り陰乾する」と記載されてますが、陶弘景は「心抜きした根
皮を用いる」ことを述べていますので、古くから根皮が使用されていたので
しょう。芍薬と同じように、薬用とすべき花色に関して、宋代には「赤いもの
のみを使用する」という記載が見られますが、清、明の時代になると、紅・白
ともに薬用とすることが述べられ、さらに李時珍は芍薬と同じように「白は補
し、赤は瀉す」と述べていますが、これらの内容に関しては現在では通用し
ていません。

 ただし、シャクヤクと同じようにボタンも栽培植物が薬用に供されてきたこと
に変わりはなく、どうしても品質にバラツキが生じていたようです。宋の『図経
本草』には「接ぎ木したものでは薬効がない」とあり、『本草衍義』には「接ぎ
木したものを薬用として用いることはできない。花葉がすでに多数発し根の
気を奪っているからである」とあり、宋代にはボタンが接ぎ木で盛んに増や
されていたことが窺えます。薬用として適していないという記事からして、当
時も今日同様シャクヤクの根にボタンを接いでいたのではないかと考えられ
ます。現在でも産地あるいは等級やロットによって化学成分がずいぶんと
異なっているのは、ひょっとするとこうした理由もあるのかも知れません。

 牡丹皮の品質としては古来、根が太くて長く、外面が紫褐色で、内部は
淡紅色で切面や内面に白色の結晶を付け、新しくて香気の強い物が良品
であるとされてきました。以前はわが国でも薬用として栽培されかなりの産
出量がありました。秋から冬にかけて根を採り、歯で木心を噛み芯を除く
いわゆる芯抜き作業は一見の価値があります。和産の牡丹皮は品質的に
もよいものですが、価格の関係で、近年は中国や韓国からの輸入品に押
され気味です。中国における産地としては安徽省銅陵の鳳凰山に産するも
のが古来最良品とされ、「鳳凰丹皮」、「鳳丹皮」などと呼ばれてきましたが、
近年輸入されてくる「鳳凰丹皮」を見ますと、匂いや太さなどから判断して日
本産に一歩劣るように思えます。また、一時「西康丹皮(西丹皮)」と称され
るものが輸入されたことがありますが、その基源は明らかでなく、成分的に
も牡丹皮としては扱うには不適当なものでした。

 牡丹皮にしろ芍薬にしろ、観賞用に品種改良された植物が薬用として利
用される場合、どうしても品質にバラツキが多くなります。今後は個々の薬
効に照らしあわせて、薬用として栽培すべき品種の選択を行う必要がある
ように思えます。

(神農子 記)