基源:クチナシ Gardenia jasminoides Ellis またはその他同属植物(アカネ科 Rubiaceae)の果実。

 クチナシは学名の jasminoides という名前が示すように,花の時期(5〜6月)になりますと,大きな白い花からジャスミンのような甘い香が漂い,庭木として好まれているだけでなく,ヨーロッパでは香水の原料にもされています。果実は中国医学で止血・利胆・解熱・鎮静などの目的で薬用にされ,また古くから(わが国では飛鳥時代)黄色の染料としても重要で,たくあんや栗きんとんなどを初めとする食品の着色に使われてきました。

 大井次三郎著『新日本植物誌』によれば,「Gardenia jasminoides はコリンクチナシの学名で,クチナシは G.jasminoides var.glandiflora であるが,中間種があってはっきり区別することはできない」としています。現在中国では前者を「山梔子」,後者を「水梔子」と区別し,薬用には専ら山梔子を用いています。両者の果実の型には確かに中間形がありますが,一般に「山梔子」はやや丸みを帯び,直径が1〜1.5cmで長さは2〜3cm,一方の「水梔子」は細長く,直径は同様ですが長さは3〜7cmになります。

 山梔子の品質については,古来「形が丸く小さく皮が薄く,七稜から九稜あり,内部が赤黄色のものがよく,細長くて大きいものは次品である」とされ,水梔子は主に染料用にされてきました。なお「七稜から九稜のものの品質がよい」とされていることに関して,『本草辨疑』や『和漢薬考』には「七稜から九稜のものは,はなはだ希である」と記されており,実際そのようなものは少なく,一般には六稜であることが多く,おそらく希少価値から珍重されはじめたものではないかと考えられます。

 現在,中国の薬局方である『中華人民共和国薬典』には G.jasminoides var.glandiflora に基づく「水梔子」は収載されていませんが,『日本薬局方』では Gardenia 属植物であればいいわけですから,どちらを使用してもよいことになっており,実際市場にも両者が出回っています。中間型があってはっきり原植物を規定できないこともありますが,今後両者の薬効的な違いを検討する必要はありそうです。

 市場には果実そのままのものが多いので,しばしば採集時期の遅れや乾燥の不手際などで中が腐って黒くなった劣品が混入していても外見では鑑別できないことがあります。そこで市場品の中には皮を去って朱色があざやかな種仁のみにしたものがあり,良質品として取引されます。

 なお,皮を去るなどの修治については,江戸時代に香川修庵が中国の金元四大家の一人である朱震亨の説を引いて,『一本堂薬選』の中で「上焦・中焦を治するには殻も共に用い,下焦を治するには殻を去って黄漿(黄色い液)を洗い去って炒って用い,血病を治すには黒く炒って用いる」と記しています。また王好古は「心胸の熱を去るには仁を使用し,肌表の熱を去るには皮を用いる」としましたが,香川修庵は「皮,仁ともに常用しているが分別があるとは思われない」と述べ,さらに「黄漿(黄色い液)を洗い流すと薬性が半減するから洗ってはいけない」という記事を残しています。このあたりについても再度科学的な検討が待たれます。

 「山梔子」は中国,台湾,韓国に産し,日本では,香川,鹿児島県などに産しますが産量は少なく,現在ではほとんど輸入に頼っています。中国では,湖南,湖北,江西,福建,浙江,四川などの各省に産し,とくに湖南省の産量が最大で,浙江省のものが良質品であるとされています。

(神農子 記)