基源:ドクダミ Houttuynia cordata Thunberg (ドクダミ科 Saururaceae) の花期の地上部である.

 ドクダミは「毒矯み」すなわち,「毒を矯(た)める」から来ており,今でも方言としてドクダメの名が残っています.昔から民間薬として毒下しに用いて来たなごりと云えます.花は5,6月ごろに咲き,全体として白い花のように見えますが,実際の花は棒状の穂状花序に多数つく花被の無い黄色い小花です.その下部につく4枚の白い花びら状のものは実は総包片です.古来民間薬として著名ですが,最近では治病薬としてよりも,健康茶としての需要が伸び,年間200トン以上が使用されています.生のドクダミには特異な臭いがあり,中国名「魚腥草(魚のような生臭さのある草の意)」の由来となっています.現在の中国薬局方の『中華人民共和国薬典』にもこの名で収載されています.

 日本名の「十薬」は10の薬効を持つからであるとする説がありますが,実際には中国の古名「■(しゅう)」に由来した名称と考えられます.「■」は後漢のころに成立したと考えられる『名医別録』の菜部下品に収載されています.わが国でも平安時代の『本草和名』(918年)に「■」の名称がみられ,和名として「之布岐(しふき)」が充てられました.「十の薬効」説はずっと遅れて『大和本草』(江戸時代前期;1708年)にみられ,「■菜,ドクダミト云又十薬トモ云−−−和流ノ馬医之ヲ用ヒ馬ニ飼フ,十種ノ薬ノ能アリトテ十薬ト号スト云」と記載されています.以上のことから,「■菜」が転じ,「十の薬効」にこじつけて十薬の名が生まれたと考える方が適切なようです.

 さて,十薬の薬効に関してですが,わが国では一般に解毒剤として利用され,昨今ではもっぱら健康食品として利用されています.一方中国では,『名医別録』に下品(毒の多い薬物)として収載され,「多食令人気喘(多食すると息切れをおこす)」とし,また陶弘景は「■不利人脚恐由閉気故也今小兒食之便覺脚痛(■は人の足を利かなくするが,恐らく気を閉ざすからであろう.小児が之を食べると,たちまち足に痛みを覚える)」と余り好ましくない作用を記載しています.その他,『日華子諸家本草』にも「有毒」,『本草蒙筌』にも「久食之発虚弱損陽気消精髄不可食(長い間食すと,虚弱になり,陽気を損ない,精髄を消す.食すべからず)」とあり,古来中国では十薬は内服薬としてではなく,専ら外用薬とされてきました.故に,わが国における解毒薬として内服する用法は,わが国固有のものとみなす考え方もあります.

 中国では,浙江,江蘇,安徽省に産し,我国でも各地にごく普通に見られますが,とくに新潟,兵庫,長野,宮崎,群馬,鹿児島などの諸県に多産します.近年中国からの輸入品もありますが,品質は国産品には及びません.採集は開花期から果実期にかけて行ないますが,ドクダミやゲンノショウコを初めとする全草類生薬は,一般に土用のころに採集するのがもっとも効果が高いとされています.近年は各地で畑栽培もされるほど需要が増えています.このような場合,暖かい地方では年中収穫できますが,品質的には劣ると考えざるを得ません.

 ドクダミの特異臭はアルデヒドの一種のデカノイールアセトアルデヒド decanoylacetaldehyde,ラウリールアルデヒド laurylaldehyde などですが,乾燥するとなくなってしまいます.また,日陰に生えた太い軸を山菜として食すると意外においしいものです.『大和本草』にも「駿州甲州ノ山中ノ村民ドクダミノ根ヲホリ飯ノ上ニオキ,蒸シテ食ス.味甘シト云,本草ニモ柔滑菜類に載セタリ」とあります.とは言え,中国の古来の薬効をも考えあわせると,山菜とは言え,また健康食品とは言え,多食は謹むべきでしょうか.とくに,薬効から察しても,虚弱な人は避けた方が賢明といえましょう.

(神農子 記)