基源:ガジュツ Curcuma zedoaria Roscoe (ショウガ科 Zingiberaceae) の根茎を,通例,湯通ししたもの.

 「莪朮」はもとはインド薬物で,中国では唐の『薬性論』に「蓬莪茂(ほうがしょく)」の名で収載されました.わが国では3局以来収載されており,薬味・薬性が苦・辛・温で,芳香性健胃薬,駆 血薬として使用されています.

 薬用部である根茎は短く分岐して重なり合い,個々は卵形で表面に輪節があります.精油を約1%含み,その主成分は cineol で特異な臭いを有し,また熱湯に浸したのち乾燥するのででんぷんが固化しとても堅くなっています.

 中医学では, 醋炒すると止痛消 の効能が強まる, 「莪朮」と「三稜」は,効能が似ており破血行気・消積止痛に働くが,行気には「莪朮」が優れ,破血には「三稜」が優れているとされます.最近では単味あるいは「三稜」とともに注射剤を作り子宮頸癌,外陰癌,皮膚癌,口唇癌に使用し,一定の効果が認められたとする報告もあります.また,「莪朮」の薬性はあまり激しくありませんが破削の薬物であるので,「破 しても元気を損傷しないように等量の人参か党参や黄耆を配合すべきだ」とする考えもあります.

 ガジュツの栽培はインド,スリランカ,中国南部,東インド諸島で行われています.日本でも屋久島,沖縄,奄美大島などで少量栽培されているようですが市場性はなく,ほとんど輸入に頼っており,年間300トンぐらいの需要があります.なお,『中葯志』には中国産で従来 Curcuma zedoaria と同定されてきたものの多くは C.aeruginosa または C. kwangsiensis であったとし、現在では前者に中国名「莪朮」をあてています。故に,この説を取るなら,中国産「莪朮」には日局適合品がないことになります.同書にはこれら2種以外にも C.wenyujin,C.sp(川鬱金)などが原植物として記載され,また『中華人民共和国薬典 1990年』には C.phaeocaulis,C.kwangsiensis,C.wenyujin と少々学名の異なる3種が原植物として規定され,今だに原植物の学名に混乱がみられます.これは本属植物の地上部が互いに非常によく似ているためです.

 現在,広西省産の「広西莪朮」が産量大で,個体の大小が揃った,質が堅実で光沢のある,断面が帯黄緑色の,髭根のない品を良品とします.淅江省産の「温莪朮」は加工して片姜黄と称し「姜黄」としても市販されるとのことです.なお,中国では莪朮類の根の膨大部を「鬱金」(郁金は略字,玉金は同音の当て字)と称し薬用としていますが,わが国では使用されていません.

 今年6月23日に『公定書収載生薬の基原及び性状の検討会』が行われました.ショウガ科生薬の基源の混乱(欝金,莪朮,良姜など)についても検討され,「南越国境紛争により流通が途絶え,中国南方各省の代用品が使われだしたことが今の混乱につながっている」,また「東南アジア・インド原産の生薬を原産国に求めずに,混乱している中国に求めたため日本市場でも混乱をきたしているようだ」という見解がなされました.また「莪朮」の市場調査結果からも,「市場品の8品は,断面の色が灰褐色でないもの4品(緑黄色,鮮黄色),そのうち2品は小形(長さが4 以下)であった.中国からの輸入品は日局の C.zedoaria Roscoe とは異なる植物の『中華人民共和国薬典 1990年』の C.phaeocaulis,C.kwangsiensis,C.weyujin,そのほか,C.longa,C.aromatica の5種類が混入している可能性がある」と警告がなされました.

(神農子 記)