基源:クララ Sophora flavescens Aiton (マメ科 Leguminosae)の根で,しばしば周皮を除いたもの

 苦参は『神農本草経』中品に収載されている生薬で,清熱燥湿,殺虫止痒,湿熱による小便不利に処方され,苦味健胃・解熱・利尿・駆虫・止瀉などを目的に内服されるほか,慢性の湿疹,あせも,水虫などに,濃く煎じたものが外用されます.

 読んで字のごとく,極めて苦味が強く,効能は黄連や竜胆草,黄柏などに似ていますが,さらに利尿・駆虫作用があり,皮膚疾患によく効くのが特長とされます.腎気が実し,湿火が勝っているときは適応証ですが,火が衰えて精が冷え,元陽が不足していたり,高齢や胃気が虚弱なときには用いてはならないとされます.また『本草衍義補遺』に「人によって腰が重くなる人がいますが,これは気が降にして不昇のためで,腎を傷るからというわけではない」とありますが,『本草彙言』に「先人は苦参は腎を補い陰を補うというがその論は甚だ誤りである」,「苦参が降ろして昇らないというのは実に腎を傷るという意味であるのに,なぜ腎を補い陰を補う効があるのだろうか」といった記載もありますので,使用には十分注意せねばならない薬物と云えます.

 服用すると、軽い中毒症状でめまいをおこすことからクララという和名がつけられました.シベリア・中国・朝鮮半島・日本の本州,四国,九州の山野に自生し,年間約10トン輸入されています.現在わが国の市場品は,中国産が主流です.中国では各地に産しますが,山西,湖北,河南,河北省の産量が多く,特に河北省で最も多く栽培されています.長く曲折が少なく,皮が黄褐色,内面黄白色で苦みが強いものを良品とし,肥大したもの,あまりに細いもの,色の濃いものなどは劣品とされます.

 含有成分については,ルピン系アルカロイドの matrine,matrine N-oxide(oxymatrine),sophocarpine N-oxide,フラボノイド,サポニンなどの報告があります.苦参のアルカロイド(+)-matrine は,麻黄のアルカロイド ephedrine の研究で有名な長井長義氏によって初めて単離され,1889年に発表されました.またその酸化体 (+)-matrine N-oxide は,"世界で初めて単離された N−オキサイド"として有名なアルカロイドで,重要な薬理活性物質であるといわれています.これら N−オキサイドの含有量は,採集時期,使用部位により大きな違いが見られ,特に発芽期や開花期など植物の代謝が活発な時期に多く見られることなどから,これらと(+)-matrine との生合成的関連性が指摘されています.

 そのほか,根から得られる Pterocarpan(l-maackiain)とその monoglucoside の trifolirhizinは,turfgrass disease(雪どけの頃白い菌糸体が表面にでる穀草類の病気の〈雪腐れ病〉や,時々芝生の上に現れる暗緑色の〈菌環〉)を引き起こす病原真菌類である担子菌類の Rhizoctonia,Marasmius,Lepista spp.,藻菌類の Pythium spp.の成長を阻害するという報告もあります.

 苦参はさまざまな皮膚糸状菌によって引き起こされる皮膚疾患の治療に外用されてきましたが,こうしたアルカロイドやフラボノイドが有効に作用しているのかもしれません.

(神農子 記)