基源:チョウセンゴミシ Schizandra chinensis Baillon(マツブサ科 Shizandraceae)の果実

 チョウセンゴミシは,朝鮮半島,中国,アムール,樺太,日本に分布する雌雄異株の植物で,地中にほふく根茎を伸ばし増えていきます.享保年間(1716〜36年)に中国からもたらされたとされますが,日本にも北海道,本州の北部及び中部の山地に自生しているものです.五味子は「甘・酸・辛・苦・鹹」の五味を持つところから名付けられ,『神農本草経』上品収載生薬です.

 市場には北五味子と南五味子がありますが,北五味子は日中両国ともチョウセンゴミシ Schizandra chinensis Baillon の果実で,南五味子はわが国ではサネカズラ(ビナンカズラ)Kadsura japonica Dunal をあて,中国では現在は Schizandra sphenanthera Rehd et Wils.をあてています.古来,五味子には数種ありますが,この南・北については,『本草綱目』に「現在の物は南北の区別があって,南方の産は色が紅く,北方の産は色が黒い.滋補薬に入れるには必ず北方産の物を用いるのが良い」という記載があります.中医学では,北五味子は滋補の効能に優れ虚証の咳嗽に適し,南五味子は慈補の効能は劣り止咳に働くので,風寒咳嗽に適するとしています.五味子(北五味子)の品質は表面に皺があり,粒が大きく肉厚く,油性及びつやがあり,紫黒色を呈し,甘みがあり,種子が苦く辛いものが良品で,未熟で,淡赤色,慈味の薄いものは次品とされます.

 五味子の成分として,セスキテルペン類,リグナン類が知られています.リグナン成分は 1961年 Kochetkov らによりジベンゾシクロオクタジエン骨格を持つビフェニルリグナン schizandrin,deoxyshizandrin,(+-)-γ-shizandrin などが初めて単離され,その後の研究で gomisin A,N など約30種のリグナンが単離構造決定されました.リグナンには四塩化炭素や galactosamine による肝障害で上昇した血清中の GPT,GOT 値を低下させるほか,中枢抑制作用,鎮咳作用があるとする報告があります.最近の研究報告に市場品五味子と日本国内採集品五味子のリグナン類を比較したものがあります.中国,朝鮮産のリグナン類は schizandrin,gomisin N,gomisin A を,国内採集品は schizandrin,deoxyschizandrin を主成分としていました.「リグナンの,実験的肝障害改善作用は,gomisin A,gomisin Bなどメチレンジオール基を持つリグナンに強く認められ,とくに gomisin A には持続性の中枢抑制作用,あるいはトランキライザー様作用,鎮咳作用なども認められていることから,日本産五味子より gomisin A,gomisin N などを多く含む中国・朝鮮産の方が品質的に優れていると推定できる」といった報告があります.

 また,五味子の採集適期についての報告もあります.市場性の高い中国産五味子について,遼寧省の一定の場所で3年間観察し検討されました.「1990年,分果は6月30日より大きくなり始め,7月5日では充分な大きさに達していた.分果が赤色づくのは8月20日ごろ,果肉部に潤いがでて果皮が脆くなるのは9月10日ごろからで,これらは3年間で年次的な変動は見られなかった.分果は,その中に1個もしくは2個の種子を持ち,2個の種子を持つ分果は大型であり,9月下旬になると早く完熟した大型の分果の脱落が始まる」と報告されています.7月上旬の結実初期は,リグナンは schizandrin だけですが,果実の形態が整う8月上旬には完熟期と同じ構成比で生成されていました.リグナンは種子に多く含まれることから種子ができるのと同時にその生成が始まると考えられます.果実が成熟し果肉が充実するにつれその含量は相対的に減少しますが,絶対量では7月下旬から9月中旬まではほぼ一定の値を示しました.採集適期は,分果が大きく果肉に潤いが見られ,しかも大きな分果の脱落が始まらず,リグナン含量もほぼ一定の時期であると考えられ,「9月中旬がこの地域におけるチョウセンゴミシ果実の採集適期である」と結論されています.この報告結果は、本草書にある採集時期「八月」にもよく一致しています.

(神農子 記)