基源:マグワ Morus alba Linne またはその他同属植物(クワ科 Moraceae)の根皮

 クワ(桑)は古来,神秘の繊維「絹」を吐き出すカイコが食べる唯一の植物として,神木扱いされてきました.また薬用としても,根の皮,枝,葉,果実,はたまたカイコが消化した後の糞にいたるまで,あらゆる部分が利用されてきました.

 クワ由来で現在局方に収載されている薬物は「桑白皮」で,『神農本草経』中品に「桑根白皮」の原名で収載されました.清瀉肺熱薬として,肺熱の咳嗽,呼吸困難,呼吸促迫,浮腫,尿量減少,発熱などに応用されます.

 生薬「桑白皮」を調製するには,春,発芽前に若くて太い根を掘り取り,新鮮なうちに黄褐色のコルク層をそぎ落し,皮部を縦に切り開き,木槌で軽くたたいて皮部を木部から分離させ,剥いで日干します.原木は昨今では栽培品のマグワ M.alba L.やロソウ M.multicaulis Perr.が利用され,多くの品種があります.中国産は日本産に比べると皮が厚く,色はより白く調製され,粉性で柔軟なものが良品とされます.日本産はいわゆる「皮付き」とよばれるもので,皮が薄く柔靭で,コルク皮が完全に剥がされておらず,色は白色から淡黄色に近いものが良品とされます.このように日・中でわずかに品質が異なりますが,ともにより白いものが良品とされたことから,水に洒して故意に白く製したものもあったようで,洒品は使用に堪えないとする記載もあります.

 『雷公炮炙論』に,「銅刀で青黄色薄皮を一層剥ぎ落し,次の2層目の白く柔らかで青い涎(分泌液)の出る部分をとり,銅刀で刻み,焙って乾燥させ,皮の涎を落さないようにして調製する.この涎に薬力がある」とあり,また『図経本草』に「皮中白汁は小兒の口瘡白慢に拭い清めてこれを塗れば癒える.また金刀の傷で燥痛するに塗れば直ちに血が止まる.よって白皮でつつむ.甚だ良し」とあることから,クワ科特有の分泌液(乳液)に薬効があると考えられ,よって洒すことにより乳液が亡失するので品質が劣化するものと考えられます.洒品は灰白色に仕上がるので区別できます.

 なお,『古方薬品考』には「皮薄く黄赤色の者上品と為す.また皮厚く黒色を帯びる者下品.薬舗これを皮付きとよぶ」とありますが,「皮薄く黄赤色」はクワの根皮の特徴であり,他の偽品(枝の皮やヤナギの樹皮など)からの鑑別法であったと考えられます.

 現在中国では,河南,安徽,四川,湖南,河北,広東省に主産します.河南,安徽省産を「亳桑皮(はくそうひ)」と称し産量最大で,浙江省淳安,遂安に産するものを「麗桑皮(れいそうひ)」,江蘇省蘇州,南通に産するものを「北桑皮」と称します.現在のわが国市場は中国産が主流を占めています.

 『図経本草』に,「白皮作線以縫金瘡腸出者更以熱鶏血塗上唐安金蔵剖腹用此法便」とありますが,実際イヌの実験した結果では,桑白皮繊維で傷口を縫うと,後で糸を切除する必要が無いことが報告されています.こうしたこともクワの神木たる所以と言えましょうか.

(神農子 記)