基源:キバナオウギ Astragalus membranaceus Bunge 又はナイモウオウギ A.mongholicus Bunge (マメ科 Leguminosae)の根

 黄耆はわが国ではそれほどなじみのある生薬ではありませんが、中国では人参以上にポピュラーな生薬となっています。『本草綱目』に「耆とは長(おさ)の意味であって、黄耆は黄色のもので補薬の長だからかく名付けたものである」という記載があり、人参と並ぶ補薬として重要な生薬です。補薬は補気薬・補血薬・補陰薬・補陽薬などに分類されますが、黄耆は人参と同様補気薬に入れられ、疲労倦怠感、食欲不振、泥状〜水様便、腹満、浮腫、息切れ、呼吸が浅い、声に力がない、自汗があるなど、中国医学的には脾肺気虚の症状に応用されます。中国で人気があるのは、同じ効能で人参よりも入手しやすく安価なことが原因となっているのかも知れません。

 現在わが国の薬局方では、黄耆の原植物としてマメ科の Astragalus 属植物だけが規定されていますが、中国では Astragalus 属以外にも、同じくマメ科の Hedysarum 属植物も黄耆の原植物となっています。わが国でも、かつては「和黄耆」として Hedysarum vicioides Turcz.(=H.iwawogi Hara)イワオウギの根が用いられたことがあります。

 マメ科の多くはシュウ酸カルシウムの結晶を含む結晶細胞列がありますが、Astragalus 属にはありません。これが Hedysarum 属との重要な区別点とされ、それ以外の色、味、内部形態などの諸形質は互いによく似ており、五感による両者の判別はたいへん困難です。局方では Hedysarum 属と区別するため、「本品の縦切面を鏡検するとき、繊維束の外辺にシュウ酸カルシウムの単晶を含む結晶細胞列を含まない」という純度試験の規定が『第八改正薬局方』から設けられています。しかしながら、Hedysarum 属基源の黄耆がまったくの偽品かというとそうではなく、H.polybotrys Hand.-Mazz.(中国名:多序岩黄耆)を基源とする「束耆」又は「紅耆」は、局方外生薬として輸入が認められています。

 黄耆の品質については、根が太くて長く、しわが少なく、質が緻密で柔軟であるが堅く綿状にねばりがあり、外部淡褐色、内部黄白色、粉性が十分で、甘みがあり香気の高いものが良品とされ、根が細くて小さくまた二つに分かれたものや、質が粗雑で比較的脆く、粉性に欠け、先端の空洞が大きいもの、苦みを感じるものや、ごく硬いもの、柔らかくてもしまりのないものなどは下品とされます。栽培品では根は年ごとに太く長くなり6〜7年程度栽培したものが品質・収量ともに最良であるとされます。

 最近では野生品は資源が減少してほとんど採取されなくなり、今後は栽培に頼るしかありません。収穫は、葉が落ちた秋または春の芽が出る前に行われ、中国では少なくとも4〜5年栽培されますが、日本では1〜2年で収穫されます。これは、土壌と経済効率のためといわれますが、このためか、中国産と日本産では黄耆の形がまったく異なっています。日本産は全体に細く分枝根が多く、一方の中国産は柔軟でほとんど分枝がみられません。現在、中国産黄耆はナイモウオウギが主で、中国東北、華北、蒙古、ロシアに分布し「北耆」、「綿耆」と呼ばれ、良品として中国全土だけでなく日本、東南アジアその他に輸出され、中でも山西省栽培品が最良品とされています。

 黄耆の強壮作用は、サポニン・astragaloside 類によって説明される可能性があるとされていますが、詳細は不明なようです。

 異物同名品の整理、栽培年数と品質、また加工調整法の検討など、さらなる研究が待たれます。

(神農子 記)