基源:キササゲ Catalpa ovata G.Don 又は C.bungei C.A.Meyer (ノウゼンカヅラ科 Bignoniaceae)の果実

 本生薬は非常に利尿作用が強く,むくみや蛋白尿を起こしたときの利尿薬として著しい効果が認められています.原植物のキササゲは中国原産の落葉高木で,わが国へは中国から伝わり栽培されました.庭園樹や街路樹として利用されていますが,種子は扁平で先端に糸状の長い絹毛があるため風に乗って運ばれやすく,また発芽しやすいことから,今では河原や山中などのやや湿ったところに野生化しています.

 一般に生薬の利尿作用は,カリウム塩などの無機塩の作用であると考えられていましたが,1963年,様々な利尿生薬のカリウム含量を測定し利尿試験を行った結果カリウム含有量はまちまちで,カリウム含量の多少と利尿作用の強弱とは関連性の無いことが報告されました.ただ,これはカリウムによる利尿作用を否定したものではなく,生薬は種々の薬効を有する成分の共存体で,その作用はそれらの有機的な和によるものだと結論されています.

 キササゲのカリウム含量も種子は 0.44%,果皮は 0.34%と極めて少なく,利尿試験に用いられた実際のカリウムの有効量は 3.72mg/kgで,キササゲに含まれる程度の量での利尿作用は考えられませんでした.当時,配糖体にも利尿作用のあることが証明されていましたので,キササゲについてもラットを用いてイリドイド配糖体の catalposide,catalpol と利尿作用との関係が研究された結果,イリドイド配糖体も利尿作用を有し,catalpol は catalposide よりやや効果が強いことがわかりました.catalposide は経口投与では強い利尿作用を示すが皮下投与ではその作用は弱く,一方の catalpol は経口投与では catalposide の経口投与による作用より弱いが,皮下投与においてはその量を catalposide の経口投与量の1/10にしても利尿効果を示し,catalpol の 5mg/100g皮下投与はカフェインの 2mg/100g,酢酸カリウム 35mg/100g皮下投与とほぼ同じ利尿効果であると報告されています.

 キササゲは果実が緑色からなかば褐色に変化している未熟果実を採取します.さや果の先端がわれ種子がわずかに覗く程度の物が良品とされ,全開して種子が無くなったものは品質が劣るといわれています.その果実が「ササゲ」に似ているのが和名の由来です.以前は長野県や埼玉,群馬などの各県で栽培され出荷されていましたが,現在では中国からの輸入が多く,わが国での生産はほとんどありません.

 なお,『本草綱目』によると本植物の根皮は「梓白皮」の名称で解熱や湿疹,慢性の皮膚病に浴用剤として,また葉も薬用にしていますが,果実利用の記載は無く,果実を利尿薬として利用するのはわが国固有のものといえます.1932年(昭和7年)第5改正日本薬局方に初収載されました.

(神農子 記)