基源:アマチャ Hydrangea macrophylla Seringe var. thunbergii Makino(ユキノシタ科 Saxifragaceae)の葉及び枝先

 アマチャといえば4月8日の灌仏会(花祭り)の甘茶供養が思い出されます.この風習は江戸時代にはじまったとされますが,甘茶の薬用利用の歴史は意外に新しいようです.甘茶は日本固有の生薬で,丸剤などの矯味(甘味)薬として家庭薬の原料に用いられたり,口腔清涼剤の製造原料,醤油の味付けとしても利用され,また糖尿病患者の砂糖の代用品としても用いられています.中国医学では使用されないため,年間消費量の約50トンは,長野県の信濃町を中心に,富山,岩手などで生産され,そのほとんどが契約栽培です.

 アマチャは高さ1mぐらいの落葉低木で,ヤマアジサイ Hydrangea serrata の中から甘み成分を持つ一系統が選抜されました.ヤマアジサイ同様,初夏に枝先に青色の花をつけますが,甘茶製造の目的で栽培する場合には花は早いうちにつみ取ってしまいます.

 甘茶は確かに甘いものですが,栽培されたアマチャの生の葉を噛んでみても苦いだけで少しも甘みはありません.甘くするには次のような調製が必要です.

 9月に地上 10cmくらいの所で枝ごと刈り取り,葉をしごきとります.葉は水洗したあと約2日間日に干し,その後水を噴霧してむしろをかけて1日放置します.そうすると発酵が進み温度が上昇します.温度が約25℃になった時,むしろの上に広げて手で葉をよく揉んでから乾燥します.しごきとった茎は,挿し木に用いれば簡単に増やすことができ,次回の製造材料として使うことができます.

 以上のような調製によって,生葉中の配糖体 phyllodulcin-8-O-β-D-glucoside が酵素により加水分解を受け,ショ糖の約 400倍もの甘味のある,phyllodulcin になり,甘い甘茶に仕上がります.

 このように甘茶は発酵課程を経て初めて甘くなるのですが,実は発酵処理前と処理後の化学成分の含量を比較検討してみますと量的に全く対応せず,現在では phyllodulcin の生成には加水分解だけでなく,他の化学過程の存在も予想されています.

 甘茶は暗緑色から暗黄緑色で,葉以外の夾雑物の混入が認められないものが良品です.薬局方では,「茎を 3.0%以上含まない.茎以外の異物を 1.0%以上含まない」と純度試験で規定されています.茎には phyllodulcin-glucoside が含まれていないからです.少量の混入が許容されているのは,葉をしごき採る時どうしても混入してくるからです.

(神農子 記)