基源:Rheum palmatum L., R. tanguticum Maxim., R. officinale Baillon, R. coreanum Nakai またはそれらの種間雑種(タデ科 Polygonaceae)の,通例,根茎。

 本年度の弊社の同好会(熱海)の展示会場では,大黄コーナーが真中に設置され,生の原植物があって話題を呼びました。会場中に大黄特有の芳香が漂い,周囲の雰囲気を盛り上げていたようです。

 大黄の原植物であるタデ科のダイオウ属植物は,中国北部の高山帯に自生しています。採集時期は本草書には旧暦2月8月とありますから,春と秋ということになります。冬季は地面が凍って採集困難なのでしょうか。また,夏季は高山帯といえども草が生い茂り,気温もかなり上昇するものと考えられ,また植物も成長時期で,薬用としては良いものが収穫出来ないものと考えられます。

 大黄は古来下剤として知られています。瀉下活性成分についてはよく研究されており,アントラキノン誘導体のセンノシドがその本体です。この物質は名前から想像できますようにセンナ葉から単離されたものです。センノシドを服用しますと,腸管内の嫌気性菌の働きによって還元され,レインアンスロンとなり,この物質が腸管を刺激して蠕動運動を起こさせ,その結果瀉下作用を表すものだと研究報告されています。また,大黄には逆に下痢を止める作用があるともいわれますが,大黄の煎液には赤痢菌や大腸菌などに対して抗菌作用が有ることも報告されており,多量含まれるタンニンとともに,そうした効能をも発揮しているのでしょうか。

 一方,大黄は瀉下薬ではなく,駆お血薬あるいは健胃薬であるとする説もあります。『神農本草経』には薬効に関する記事の冒頭に「お血,血閉を下す」とあり,たしかに駆お血薬としての効能が記されています。しかし,大黄の駆お血薬としての評価研究に関しては現在のところプラスのデータは得られていないようです。日本薬局方の新版『十三局』では大黄中のセンノシドAの含量が2.6%以上と規定されました。これは大黄を瀉下薬として評価した結果です。

 大黄の品質は古来「錦紋」のあるものが良いとされてきました。錦紋とは大黄原植物の根茎の髄内に黄色く見られる異常維管束による紋様のことで,根にはありません。根茎が良質品であったということです。現在市場で「錦紋大黄」と称されるものは甘粛省産のやや小型で色が淡い黄色をしたものです。このものは確かに根茎なのですがセンノシドの含量が少なく,中には『十三局』の規定に不適合な品もあります。大黄を瀉下薬として評価した場合には品質が劣るようです。ただ,先にも書きましたように「錦紋大黄」とは根茎由来の生薬であると考えられますので,商品名のみで良否を判断することは正しくないようです。

 なお,ダイオウ属植物の根にも根茎と同じ程度のセンノシドが含有され,ヨーロッパでは古くから根も利用されていたようです。中国医学における大黄の本来の薬効が瀉下であったなら,根茎にこだわる必要はなかったものと考えられます。大黄は瀉下薬として有名になったためにその面の研究に重点が置かれてきたようです。今後は大黄の駆お血薬また健胃薬としての面も研究されるべきだと思われます。

(神農子 記)