基源:オタネニンジン Panax ginseng C.A.Meyer (ウコギ科 Araliaceae)の根。

 人参は中国医学の中で最も有名な生薬といっても過言ではないでしょう。世界中にジンセンの名前で知れわたっています。

 人参は『神農本草経』の上品に収載され、古来補薬として珍重されてきました。もとは朝鮮民族の薬物であって、陶弘景も高麗のものが最も品質が良いと記載しています。このようないきさつから、中国では古来品不足であったことが考えられ、根の形が似ている多くの偽物が出回っていたようです。宋代の『図経本草』にも4種類の異なった図が描かれ、それぞれ科も異なるまったく違った植物と思われます。その中で品質が良いとされている上黨(今の山西省路安)産の人参(路州人参)の図が正品であるオタネニンジンを描いたものと判断されますが、現在ではその地には産しません。

 偽物が多かったためか、人参には興味ある真偽鑑別法が記載されています。『図経本草』に「言い伝えによると、上黨の人参を試すには二人の人間を同時に走らせ、一人には人参を口に含ませ、そうして3〜5里も走ると人参を口に含まなかったものは必ず大きく喘ぐが、含んでいた者の気息はごく自然である。これが真物の人参である」というものです。

 人参は日本でも古くから有名であったようで、江戸時代には病身の親のために身売りしてまで入手したという話はよく耳にします。人参はそれほど優れた効果があったものと考えられますが、近年ではそうした劇的な効果があったということを聞きません。人参の化学成分や薬理学的な研究は世界中でなされていて、おそらくあらゆる生薬の中で飛び抜けて報告数が多いのではないかと思われますが、未だにそれらしい有効成分が見つかってはいないようです。現代人は昔に比べると栄養状態が良くなり、以前のような人参適応者がいなくなってしまったことが理由であるとする考え方もありますが、ただ、以前すばらしい薬効があるとされていた人参はまぎれもなく野生人参で、今われわれが使用している人参はまぎれもない栽培人参である事実を忘れてはならないでしょう。

 現在わが国では福島県、長野県、島根県などでオタネニンジンの栽培をしていますが、近年は安価な中国産に押されぎみで、産地は価格の低迷にあえいでいるようです。一方、産地では品質に関しては分岐せずにすっと伸びた胴長のものが好まれていますが、これは紅参として輸出する際の規格に左右されているのであって、薬効の多少とは関係がありません。実際、形が悪くてもより大きなものほど単位重量あたりのエキス含量は多い傾向にあるようです。以前はヒトの形をしたものに神効があると信じられてきましたが、今ではそのようなものは加工面で嫌われています。これも時代の流れでしょうか。現在市場では栽培年数の長くて大型のものが良質品として取り扱われています。

 また加工面では、そのまま乾燥した「生晒参」(生干し人参)、軽く湯通しして外皮を剥ぎ取って乾燥した「白参」、内部の色が変色するまで湯通しした「御種人参」、長時間蒸してから乾燥した「紅参」などがあり、日本薬局方では前3者を「人参」とし、「紅参」と区別しています。その他、中国では氷砂糖汁に漬けた後に乾燥した「糖参」があります。

 今や野生人参を入手することはきわめて困難になっていますので、研究はおろか少量を服用することすら困難ですが、人参は昔からすばらしい薬物とされてきただけに、さらなる薬効と品質に関する研究が進むことを私たちも期待しています。

(神農子 記)