基源:ナンテン Nandina domestica Thunb.(メギ科 Berberidaceae)の成熟果実

 お正月を飾る植物として、昔から松・竹・梅の他に、千両、万両、南天、万年青などが利用されてきました。これらのうち、マツやタケは一年中枯れることなく青々としていることが貴ばれ、センリョウ(センリョウ科)、マンリョウ(ヤブコウジ科)、ナンテン、オモト(ユリ科)などは青々とした葉に加えて、名前や赤い果実が縁起が良いとして喜ばれています。中でもナンテンは「難転」に通じるため、縁起の良い木として普段でもよく利用される植物です。人家の庭にナンテンをよくみかけるのは、その魔除けの霊力を期待されるからで、家相学上からみて悪いとされている場所、災いが入りやすいとされる場所などの不浄やけがれを祓うために植えられるのです。玄関や便所の近くに植えられているのも同じ理由なのでしょうが、そういえばわが生家の便所の近くにはヒイラギナンテン(属は違いますがやはりメギ科植物です)が植えられていたのを思い出しました。これも同じ理由からだったのでしょうか。一方、ナンテンは挿木が容易で、昔は便所は陰気で湿気た場所に設けられたため、手水鉢のそばに生け花で飾り終えたナンテンを捨て置くだけで自然に発根し生え育ったことも便所のそばにナンテンが多い理由ではないかと考えられています。

 また、食べ物を進物するときにその上にナンテンの葉を置く習慣も"食あたりの難を転ずる"という意味があるようです。ただ、南天のこうした作用は決して迷信ではなく、実際植物体には抗菌作用のあるアルカロイドのベルベリンが含まれ、さらに生の葉から強い殺菌作用のあるシアン化水素が極微量ながら発生するも知られています。進物用のお赤飯に添えられるのもこうした作用を期待してのことであったと考えられます。昔は冷蔵庫もなく、進物品は調製後口に入るまでの時間が長くなるため、どうしても腐敗しがちであったことが容易に想像できます。せっかくのご祝儀のお赤飯が運ぶ間に腐ってしまってはめでたくも何もありません。現在では交通の便も良くなり、腐敗する前に相手方にお届けすることができる世の中になって本物の葉が必要なくなってしまったのか、プラスチックの葉が添えられることが多くなってしまいましたが、古人の経験と知恵には敬服せざるを得ません。やたら食中毒の多かった昨年を顧みたとき、再び本物のナンテンに登場してもらいたくなるのは筆者だけでしょうか。

 さて、ナンテンが初めて本草書に収載されたのは中国宋代の『開宝本草』です。それによれば"枝葉は下痢を止める"と書かれており、果実の記載は一切ありません。果実はあくまで民間的に古くから百日咳や喘息などの咳に鎮咳薬とされており、日本へもその知識が伝わったものと考えられます。

 ナンテンには実が赤く熟する普通種と、白く熟するシロミナンテンの2種があり、生薬市場の「南天実」も赤・白に区別されています。一般に「白南天実」が好まれますが、実際には赤白に効果に違いはないようで、稀少価値なのか、あるいは白は補う力が強いとされるからなのか、その当たりのことがよくわかりません。ただシロミナンテンの果肉の方が赤い実よりも厚いことは事実で、ひょっとしたら使用する量が少なくて済むのかも知れません。いずれにせよ、赤い果実をわざわざ薬品で脱色されて出回ることがあるのは困ったものです。

(神農子 記)