基源:クコ Lichium chinensis Mill.(ナス科 Solanaceae)の成熟果実を乾燥したもの(枸杞子)、根皮を乾燥したもの(地骨皮)、葉を乾燥したもの(枸杞葉)。

 クコはよく庭に植えられているため、外来の栽培植物のように思われがちですが、わが国にも川の土手や溝のへりなどに群がって自生しています。ナス科植物の大部分が草本である中で、クコは珍しく木本(落葉低木)で、細くてきゃしゃな枝に、初夏には淡紫色のかわいい花を咲かせ、秋には楕円形で赤くて艶のあるきれいな実をたくさんつけ、葉が落ちてしまった後にも残って、初冬には風情のある姿を見せてくれます。また山菜としても春季に若葉をお浸しにしたり、クコ飯を炊いたり、また夏頃の葉は茶剤として楽しまれるなど、けっこう生活の中で馴染みの深い植物といえます。

 クコは「神農本草経」の上品に「枸杞」の名で収載されました。そこでは薬用部位は特定されていませんが、『名医別録』には「冬に根を採り、春夏に葉を採り、秋に茎と実を採る」と記され、種々の部位が利用されていたことが窺えます。各部位の薬効の違いについては、『神農本草経』や『名医別録』では触れられておらず、ただ性味については根が大寒、実が微寒、茎が寒とされているだけです。おそらく各部位は、諸臓器の客熱を去り、筋骨を堅くし、陰を強める薬物として、ほぼ同効で利用されていたものと考えられます。なお根については『雷公炮炙論』に「根を使うときは心を去って・・」とあるところから、根皮が薬用にされていたようです。

 現在の中医学では、地骨皮(根)は肺の火や肝腎の虚熱を退除し、枸杞子(成熟果実)は肝腎肺の陰虚を補い、枸杞葉は心肺など上焦の客熱を去る作用があるとされていますが、李時珍は「性味の違いから部位ごとに使い分けるが、それは後世になってからのことである」と云っています。おそらく、金・元時代にそれぞれの性味が細やかに分けられたものと考えられます。

 一方わが国では、地骨皮は「清心蓮子飲」や「滋陰至宝湯」などに配合される程度で需要は少なく、却って強壮を目的に薬用酒として利用される果実や、薬用茶として利用される葉(枸杞葉)の方が需要が多いものです、クコが古来民間薬として利用されてきた所以なのかも知れません。実際、陶弘景は「枸杞の根と実は道家の養生法で丹薬(練り薬)にして用いる」と述べており、現代の民間療法と同様、滋養強壮・不老長生を期待して使用されていた生薬であったことが伺えます。枸杞子がもっぱら枸杞丸や杞菊地黄丸など丸薬として利用されるのもその名残りなのでしょうか。

 ところで「丹薬」という剤型ですが、わが国でも昔から生薬を配合した練り薬が幾種類かあり、多くは滋養強壮薬の類で、今でも疲労回復や病中病後に市販の練り薬をひとさじ口にする方もおられることと思います。長期保管すると変色したりかびが生えたりする枸杞子も、練り薬(内服膏)にすることにより、長期保管が可能となり、ひいては貴重な資源を有効に利用できるのではないでしょうか。

 最近は新剤形のエキス剤ばかりが目立っていますが、内服膏や丸剤など古来の剤型に関しても今一度見直す余地があるのかもしれません。また、同じように、今後は昨今軽視されがちな民間薬や民間療法の再発掘にも目を向けていきたいと考えています。

(神農子 記)