基源:ハッカ Mentha arvensis L.var. piperascens Malinv.又はその種間雑種(シソ科 Labiatae)の地上部。

 ハッカはヨーロッパで、全草が所謂ハーブ療法に利用されてきた薬用植物です。わが国ではその清涼感と芳香ある精油のみが、ハップ剤をはじめとする肩こりや捻挫の外用薬に配合されたり、また歯磨きのペースト、キャンディ、ガムなどに添加されてきたことから、ハッカの実物を知る人は案外少なかったようです。しかし、最近ではレストランの西洋料理の付けあわせなどにも登場するようになり、実物が身近なものになりつつあります。それでも、ハッカには多くの種類があることまではまだよく知られていないようです。

 ハッカの仲間はシソ科に属し、北半球の温帯に約40種が自生しています。それぞれの種によって含まれる精油(ハッカ油)の組成に違いがあり、香りも異なります。ハッカの仲間は英名をミントといい、代表的なものにペパーミント(セイヨウハッカ)Mentha piperita L. やスペアミント(ミドリハッカ)M.spicata L. などがあり、それぞれからペパーミント油、スペアミント油というかなり違った香りの精油が得られます。またハッカの仲間は日本にも自生していて、これには清涼感がより強いメントールが多く含まれているため、クールミントとよばれます。日局に学名収載されているのは本種です。山野のやや湿っぽい場所に普通に生えていますが、これも案外実物は知られていないようです。セイヨウハッカやミドリハッカでは小さな花が茎の先に穂状につきますが、日本のハッカでは葉の脇に群がって咲きます。もちろん葉をちぎって匂いを嗅ぐと、他のよく似た植物ともすぐに区別がつきます。

 ヨーロッパにおけるハッカ属の薬用の歴史は古く、『ディオスコリデスの薬物誌』に「POLUKNEMON」として記載されたものがハッカ属であるとされ、『プリニウスの博物誌』にはハッカ、メグサハッカ、イヌハッカなどが、諸毒、黄疸、吐血、湿性・乾性の気管疾患、胃痛などにと、幅広く利用されると記されています。もちろん、ヨーロッパでは今でも最も重要なハーブの一つで、各国の薬局方に種々のミントが駆風、鎮痙、鎮静薬などとして収載されています。また民間的な利用方法としては、軽く煮立たせるか、熱湯を注いでお茶にして服用すると精神的な疲労をとり除き、気持ちを爽やかにし、強壮効果があるとされ、浴湯料にすれば、鎮痛、鎮静、精神疲労の回復、消毒、消臭のほかに、血行をよくし新陳代謝を活発にするとされます。また、食欲増進の目的で料理の味や香り付けに使用されるなど、幅広い用途が現在にまで受け継がれています。

 一方、中国ではハッカ(薄荷)は『新修本草』の菜部中品に初収載され、「主賊風傷寒発汗悪気心腹脹満霍乱宿食不消下気…」とあります。また李時珍は「呉、越、川、湖の地方では茶の代わりにする」、「蘇州のものは茎が小さく気が芳しく、薬に入れるには蘇州のものが勝れている」などと記し、中国でもヨーロッパと同様にハーブティーにしたこと、また茶にするものと方剤に配合するものは別種であったことが窺えます。なお、現在の中国産薄荷の原植物はわが国のハッカと同種であるとされ、李時珍が云う蘇州のハッカも本種であったとされます。最近ではこの中国産が多く輸入され、市場に流通しています。

 薄荷が配合される代表的な漢方薬に「荊芥連翹湯」「加味逍遙散」「防風通聖散」「柴胡清肝湯」などがあります。これらは比較的構成生薬の種類が多い方剤で、薄荷の調剤量は1〜1.5g程度とやや少なめです。生薬の品質としては、薄荷は蘇葉などと同じく八新の一つであり、新しく青々とした香気の強いものが良品とされます。八新に数えられる生薬はとくに気味が抜けやすいものです。蘇葉と違って、薄荷の場合は漢方調剤用には少量かつ使用頻度が少ない生薬ですから、普段は密封して冷凍保存しておくのがよいでしょう。

(神農子 記)