基源:カギカズラ Uncaria rhynchophylla Miq. (アカネ科 Rubiaceae)の茎の鉤状部

 漢方生薬には植物の地下部を薬用にするものが比較的多いことから、一見してこれとわかる特徴を持っていないものが多いようです。それに対して、動物性生薬の場合は形が特徴的で、珍しくもあり、素人目に訴える力が強いようで、そのためか、たとえ稀用生薬であっても、しばしば漢方関連の薬舗や資料館の看板になっています。釣藤鉤はそうしたあまり目立たない植物性生薬の中で、ひときわ目立つ生薬であると言えます。その釣針状のカギは、一見しただけでは植物なのかどうかさえ疑いたくなる独特な格好をしています。小さいがゆえに看板にはならないでしょうが、形の奇妙さでは動物生薬に決してひけをとらない生薬であると言えます。

 原植物のカギカズラは、わが国では房総半島以西の暖地に生える大型の蔓性木本植物で、中国の中・南部にも分布しています。筆者は大滝で有名な和歌山県の那智大社に詣でた折に滝方面に行く道筋で見かけましたが、優に10メートルを越えて先がいったいどこなのかわからないほどに繁茂する姿は想像していた以上に大きくて驚いた記憶があります。薬用にするカギは茎の節についていますが、市場品をよく見ますと、カギが対生するもの(双鉤)と片方しかないもの(単鉤)があります。最初は成長の違いかなどと思っていましたが、自生品の茎をよく観察しますと一節置きに双鉤と単鉤が交互に配置していることをこのとき知りました。早速植物図鑑を見ますと、それまで気づかなかったのですが、さすがに正しく双鉤と単鉤が交互に描かれています。しかし、残念なことに、生薬図鑑の原植物を描いた中には、すべてのカギが対生した図を載せているものもあります。

 中国では「鉤藤」と称され、カギカズラのほかにトウカギカズラ U.sinensis Havil. をはじめ自生する数種が薬用に利用されているようです。一方、含有する化学成分は種によってリンコフィリンを主とするものと、イソリンコフィリンを主とするものがあることが知られ、薬用としていずれが優れているのかは未解決なようですが、近年睡眠延長作用などの薬理学的研究により、徐々に解明されつつあるようです。しかし、現在までに知られている釣藤鉤のこうした化学成分は、純然たる鉤状部よりも付随する茎部に多く含有されており、現在生薬としては茎の部分が少ないものほど良質品であるとされていることと矛盾します。一方、本生薬は『名医別録』に「釣藤」の名で初収載され、『図経本草』には釣藤の樹皮が主として小児の驚癇に使用されると記載されています。それが明代には今のように鉤部のみが使用されるようになっていたようで、李時珍はその理由として、鉤部の薬効が鋭いからだと説明しています。基源の違いと薬効についてさらなる研究が待たれます。

 なお、釣藤鉤はしばしば釣藤鈎と表記されますが、「鈎」は「鉤」の略字であり、画数的にはほとんど変わらないこともあり、ここでは正字を用いて釣藤鉤と表記しました。

(神農子 記)