基源:天然の硫酸カルシウム鉱石

 石膏は古生代から中生代の地層中に産出するもっとも普通な硫酸塩鉱物です。現在では石膏細工としてたいへんポピュラーで、また骨折時などに施術後に固定を目的に利用されるギプスの英名も身近かに知られています。化学的には硫酸カルシウム CaSO4で、硬度2という数字もよく知られているのではないでしょうか。硬度1の滑石についで軟らかい鉱物です。

 薬用としての石膏は『神農本草経』の中品に、「主中風寒熱心下逆気驚喘口乾舌焦不能息腹中堅痛除邪鬼産乳金瘡」と収載されています。石膏は中医学的に清熱瀉火薬に分類され、肺や胃の実熱が原因でおこる、発熱、煩躁、口乾、頭痛、歯痛、歯齦の腫痛などに応用されます。純然たる石薬の中では、現在もっとも使用頻度の高い重要な生薬であると言えます。

 天然の石膏には、板状、柱状、繊維状、塊状、粉末状など、性状の異なるものが数多く存在しています。そのために昔は名称も混乱していたようです。『新修本草』に「石膏と方解石はだいたい同じもので、破砕しているか否かの違いである。市中ではみな方解石をもって石膏に代えている。未だ真の石膏を見ない」としています。また『図経本草』では石膏が、方解石、理石、長石、などの名称で混乱していることを詳細に記しています。最近の生薬学的な研究では、本草書中の石膏と長石と方解石はそれぞれ外観の異なる硬石膏、理石は繊維石膏であるとされています。生薬学分野でいう硬石膏とは無水石膏 CaSO4 で、劈開性が強く透明感も強いもので、軟石膏とは2水石膏 CaSO4・2H2Oで、柱状石膏その他透明感の少ない白色の石膏をいいます。本草書中での方解石は硬石膏を劈開面にそって小さく砕かれたものであったようです。ですから『新修本草』でいう真の石膏とは軟石膏であったことが窺え、現在も軟石膏が多く使われています。薬効的には化学成分構成を考えると同じように思われますが、『新修本草』には「人々は方解石をもって石膏となしている。風を療し熱を去る効果は同じであるといえども解肌や発汗の作用は真の石膏とは同じではない」と書かれており、真偽はさて置き、硬石膏と軟石膏には薬効的な違いがあると述べられています。なお、現在の鉱物学的な長石はアルミノ珪酸塩鉱物、方解石は炭酸カルシウム CaCO3 で、本草の名称とは異なっています。ただし、後者は近年の中国医学では「寒水石」の名で石膏と同様に清熱瀉火薬として使用されていますから、これらは互いに代用されても大過なかったのかも知れません。

 石膏は漢方処方では「竹葉石膏湯」、「麻杏甘石湯」、「白虎湯」などに配合されますが、ご存じのように石膏は煎じてもほとんど水に溶けずにそのままの状態で残っています。にもかかわらず、同一処方中の石膏を数倍に増量した結果、著効が得られたとする報告もあります。配合された石膏が硬石膏を砕いた透明感のあるいわゆる「砕き石膏」であったとするなら、表面積的には粉末状の石膏に劣るわけですから、増量に意味があったのかも知れません。そう考えると、古来の真の石膏とは粉末状の軟石膏であったのでしょうか。

(神農子 記)