基源:ロバEquus asinus Linne(Equidae)の毛を去った皮,骨,けん又はじん帯を水で加熱抽出し,脂肪を去り,濃縮乾燥したもの.

 阿膠は,『神農本草経』の上品に収載された薬物です.現在の『日本薬局方外生薬規格』では,上記の通りロバの皮「驢皮」から製した膠(にかわ)が規定されていますが,『名医別録』では,「生東平郡煮牛皮作之出東阿」とあり,古くは牛皮から製した膠が使用されていたようです.産地は東平郡,すなわち今の中国山東省であると記され,現在でも「山東阿膠」は有名です.『本草経集注』では,「東阿の地で製することから阿膠の名がある.品質は,老いた動物の皮,若い動物の皮など,原料の質により透明であったり濁っていたりと出来上がりが異なり,薬用には盆覆膠と称される厚くてまじりけのない透明なものが使用され,1片の鹿角を加えて製する」との記載があります.『本草拾遺』には,「阿井水で煎じて膠となす.驢皮の膠は風を主るに最たるものである」とあり,はじめて牛皮以外の膠の記載がみられます.

 この驢皮を煮る「阿井水」とは,黄河の一支流である済水が阿井(あせい:山東省の東北に位置する土地)の地に伏流しているものを指します.気味は甘・鹹・平・無毒で,飲用すると胸隔に入り,痰をよく通し,嘔吐を止める作用があり,清くて重く,この水を用いて濁った水をかき混ぜれば清くなると言われています.阿井水は透明感ある膠を製することに役立ったのでしょうか.

 阿膠の基源に関して,明代の李時珍は「沙牛,水牛,驢の皮のものを上とし,猪,馬,駝のものはこれに次ぐ」と記し,陳自明は,「虚を補するときは牛皮の膠を用い,風を去るには驢皮の膠を用いる」と種々の膠があったこと,また複数の膠を使い分けてたことが窺えます.

 また,『神農本草経』中,膠の文字のつく薬物は,阿膠以外に,鹿角から製した白膠があります.白膠は性が温で,微温の阿膠に比べると若干,体を温める作用が強いようですが,根本的な効能は,ほぼ同じであるとされています.『名医別録』では,雲中で生産されていたことが記されており,『薬性論』では,またの名を黄明膠としています.しかし,『図経本草』での黄明膠は,牛皮の膠とされることから,先述の「膠を製する際に,1片の鹿角を加える」ことやできあがった膠の色などから,黄明膠と白膠はしばしば混同されていたのではないかと思われます.

 膠の色は,基源により白色や黄色,暗褐色と様々なものがありますが,いずれも,光沢があり,透明で,皮臭がなく,夏でも軟化しないものが,良品であるとされています.

 神農本草経』上品に収載された中6品目の獣部生薬中に「阿膠」,「白膠」と膠類が2項記載されていることからも,古来,膠の有用性が充分に認められていたことを窺い知ることができます.

 中医学では,阿膠の気味は,甘,平で,効能は,陰を補い,滋陰補血・止血とされ,養血薬に分類されます.単味ならば湯か黄酒に溶かして,また,漢方処方では,他の生薬を煎じた後に溶かして服用します.なお,性質が粘であるため,消化吸収を妨げるので,脾胃虚弱者には禁忌とされます.

 以前,わが国では,膠の小片を熱で膨張させ,直径1〜1.5cmのスナック菓子のような黄白色で軽い球状になった「玉阿膠」を使用していました.しかし,「玉阿膠」のように修治されたものは基源が不確かで,また高熱が加わえられていることから,阿膠として使用するには不適当と判断されます.一時,中国からの輸入が滞り,局方ゼラチンで代用していたこともありましたが,最近では,古来良質とされる「山東阿膠」が輸入され流通しています.

(神農子 記)