基源:ホウキギBassia scoparia L.(= Kochia scoparia L.)(アカザ科Chenopodiaceae)の果実。

 地膚子は『神農本草経』の上品に、「味は苦・寒。膀胱をつかさどり、小便が熱利するのを改善し、消化機能を補い、精気を益す。久しく服用すれば、耳目を聡明にし、身体を軽くし、老いによる衰えを防ぐ」と初収載され、また『名医別録』には「皮膚中の熱気を去り、悪瘡、疝?を散じ、陰を強くする」と記されました。現在の中医学では利水滲湿薬に分類され、皮膚の風を散じ、膀胱の湿熱を清利する薬物として使用されています。陰を強める作用があることから、古来補薬に配合されたことを陶弘景が記しており、また性質が寒であることから、『新修本草』には目を洗い熱を去ったこと、『薬性論』には陰部の熱感ある潰瘍に煎じ汁で沐浴することなどが記され、古来、内・外用されてきたことが知られます。

 原植物について陶弘景は「田野に多く生え、人々は地上部を採って箒とし、種子は微細である」と記しており、古来アカザ科のホウキギが利用されてきました。中国原産で、中国では家屋周辺にごく普通に見られ、とくに紅葉が美しい品種は日本でも庭によく植えられています。英名「burning bush」はその姿をよく形容しており、また和名「ホウキギ」は草箒の材料とされることに由来していることは言うまでもありません。

 秋、果実の成熟時期に株ごと採集し、乾燥後にたたいて果実を落とします。小さな果実はよく見ると扁平な円形五角星状をしており、『図経本草』に「地膚子星之精也」とあるのがよく理解できます。色は土灰緑または浅褐色で、薬用としては豊満で枝や葉などの夾雑物のないものが良品とされます。『中華人民共和国葯典2000年度版』では、Kochia scoparia L.を正品と規定してはいるものの、東北地方ではKochia scoparia f. trichophyllaKochia sieversianaも同様に使用されており、これらを外形から区別することは極めて困難であるとされています。また、華東および湖南、湖北、貴州、山東などでは、シロザChenopodium album var. albumの果実を「灰菜子」と称し、代用品として同様に利用されます。「田野に生え、茎が赤くて葉が青い」という共通した性質から生まれた偽品であると考えられます。味とにおいは地膚子と同じですが、鈍い三角状の球形をしており、草緑色〜暗緑色で、独特の星形をしたホウキギの果実とは明確に区別できます。

 薬用には星形の花被片が着いたままのものを使用しますが、花被片を去ると直径が 1.5ミリほどの偏球形をした艶のある種子があらわれ、これが「植物のキャビア」「畑のカズノコ」などと喩えられるトンブリです。さっと湯がいて三杯酢で食べると、プチプチと音を立て、乙な味がします。秋田県をはじめとする東北地方では納豆に混ぜたりもします。若菜もまた食用とされます。

 植物分類学的に、ホウキギはアカザ科の中でかつてはBassia属に含まれていましたが、果実時に花被が翼状に発達する性質を基準にKochia属(ホウキギ属)として花被が鉤状や刺状に発達するグループから分けられました。しかし、近年の研究で刺と翼の両方をもつ中間的な植物種が存在することが明らかになり、再びBassia属に併合されました。

(神農子 記)