基源:チョウジSyzygium aromaticum Merrill et Perry (= Eugenia caryophyllata Thunberg) (フトモモ科 Myrtaceae)の花蕾。

 チョウジの原産地は,インドネシア東部,セレベス島とニューギニア島の間に散在するモルッカ諸島で,そこは肉荳蒄(にくずく)の産地としても有名で,香料諸島とも呼ばれています。

 チョウジは,宋代の『開宝本草』に「丁香」の名で「味は辛・温・無毒。脾胃を温め,霍乱擁脹を止め,風毒による諸腫,歯疳虫を治し,よく諸香を発する。その根は風熱毒による腫を治療し,交廣南蕃に生じ,二月八月に採集する」と収載されました。現代中医学においては,散寒薬に分類され,胃寒による吃逆や嘔吐,上腹部痛などに応用されます。また,本草書への収載は宋代ですが中国への渡来は古く,漢代には皇帝に奏上する際に口臭を消すために口にする習慣があったといわれています。

 わが国にも古い時代に伝来したことは正倉院御物の中にみられることでわかりますが,薫香や防黴など,薬用以外の目的での利用の方が多かったようです.また"丁子染"や"丁子色"の用語があり,丁子を使った紋所も幾つかあることなどから,その存在は古くから民衆にも知られていたようです.一方,薬用としては原形ではなく「丁子油」として利用されていたようです。丁子油は我が国では1672年にオランダの指導により製造が開始され,江戸末期には大阪の堺で,切り傷,痔,歯痛,火傷,ひび,あかぎれ,媚薬,熱病,かぜに効果的であるとされて売られていました。今でも歯医者の匂いと説明すれば誰でも知っているようです。

 ヨーロッパでは,クローブCloveと称され,芳香性興奮,鎮痛,駆風,引赤,抗刺激薬などとして鼓腸による腹痛や歯痛の治療薬とされ,また神経痛やリュウマチに外用され,芳香剤や防腐剤や保存料として,さらに料理用にと幅広く利用されています。またアーユルヴェーダではLABANGAと称され,咳,しゃっくり,嘔吐,急性炎症(口,咽喉),呼気悪臭などに使用され,インドではカレーに入れる重要な香辛料でもあります。

 丁香」の名は,釘のような形でよく香ることからつきました。現在,中医学では「公丁香(丁香)」と「母丁香」の2種が使用され,前者は花蕾,後者は果実で,母丁香は気味がうすいことから,一般には公丁香(丁香)が薬用にされます。我が国では平安時代の『本草和名』に丁香の名が見え,以来多くの本草書は「丁子」の名で記載し,まれに「丁字」が使用されてきました。精油含量の多さからも正品の基源は子(種子)ではなく花蕾であることは明らかで,「丁香」の名の方が適しているように思われます。我が国では1886年6月25日に出版された『日本薬局方』の初版に「丁子」の名称で収載されました。当時の日局収載生薬は主に西洋医学で繁用されていたものであることから,丁子の薬用は中国からではなく西洋から伝わったことがわかります。品質的には,赤褐色でよく肥厚した油分に富んだ重いもの,すなわち水に入れると沈下するものが良品とされます。

 原植物が属するフトモモ科は世界に155属3600種以上が知られ,グアヴァ,ユーカリ,オールスパイスなど有用植物は多いのですが,多くは熱帯産で分類が非常にむずかしく,チョウジについてもSyzygium属にする説とEugenia属にする説があり,最近では前者に組み込まれています。

(神農子 記)