基源:オニユリLilium lancifolium Thunberg,ハカタユリLilium brownii F.E.Brown var. colchesteri Wilson またはその他同属植物のりん片を通例,蒸して乾燥したもの。

 「百合」は『神農本草経』の中品に「味は甘・平。邪気の腹脹心痛するを治し,大小便を利し,中を補い,気を益す」と記され,『名医別録』ではさらに,「浮腫,臚脹,痞満,また寒熱が身通し疼痛するもの,及び乳難喉痺を除き,涕涙を止める」とあります。現代の中医学では陰虚,津虚を改善する滋陰薬に分類され,清心安神,潤肺止咳に働く薬物とされ,一般には滋養強壮薬として知られています。

 原植物のユリ属Liliumは,すべてが鱗茎植物で,地中に肉厚の鱗片葉が重なった鱗茎をつくり,その中心から1本の茎を出し,直立した茎の頂に花をつけます。漢名「百合」の由来は,鱗片葉が多数重なりあった根の様子に由来するのでしょう。和名に関しては古く平安時代の『本草和名』に「由利」と記されており,『万葉集』にも10首が詠まれ,古くから「ユリ」であったようです。風に吹かれると揺れることから「ユル」が変じて「ユリ」,あるいは寄り集まった鱗片葉の様子から「寄る」が「ユリ」になったとする説などがあります。

 ユリは世界的にも古くから人気のある花で,ユリを描いた壺がクレタ島のクノッソス宮殿遺跡(紀元前16世紀〜15世紀)から出土し,エジプトのツタンカーメン王(紀元前14世紀)の短刀にはユリの花が刻まれていました。我が国でも古くから栽培され,家の中に持ち込まれた最初の観賞用植物であったとされます。また,食用植物としても重要で,江戸時代の『庖厨備用倭名本草』には,「山野の民家で根を採り,蒸して柔らかくして食べた。味は甘くてよい」と記されています。現在,食用にするユリは,主にヤマユリL.aurantum,ハカタユリL.brownii,オニユリL.lancifoliumなどです。

 ユリ属植物は世界に100種余りが知られ,アジアに60余種,我が国にも13種が記録されています。薬用種に関して,『新修本草』には「この薬には二種あり,葉が大きく茎の長い白花を使う」,『日華子諸家本草』には「白百合は安心し胆を定め,志を益し,五臓を養い・・・又紅百合は涼で瘡腫を治し,驚邪を療ず・・・」,『図経本草』には「四月五月に紅白花を開く・・・もう一種の黄花で葉間に黒子があるものは薬に入れない」,また李時珍は「葉が短くて広く,竹葉に似ており,花は五月六月に開き,白色で垂れるものが"百合"である。葉が長くて狭くて尖り柳葉のようで,花は四月に開き,紅く垂れないものが"山丹"であり,茎葉が山丹に似て,花が秋に開き,黄色を帯びた紅色で黒斑点があり垂れて,枝葉の間に子を結ぶものは"巻丹"である」と違いを述べ,古来一般には白花種が好んで用いられ,ときに赤花など有色種も利用されていたようです。

 ユリの花色については,上記のごとく赤・白・黄があります。五行説に当てはめれば百合は肺と心に入ることから白と赤となりますが,古来白花品が好まれてきた理由として滋養強壮薬としては「白は補う」の理論に基づいているのでしょうか。しかし,『中華人民共和国葯典2000年版』では,L.lancifolium Thunb.,L.pumilum DC.,L.brownii F.E.Brown var.viridulum Bakerが規定されており,赤花,白花の両方がみられます。また,古来,オニユリの特徴である「葉腋に珠芽(黒子)のあるもの」は使用しないという記載も見られますが,近年は花色や珠芽の有無に関係なく利用されているようです。

 百合の処方される薬方として「百合知母湯」「百合地黄湯」「百合固金湯」などが知られます。生薬としては,一様に肉厚で堅くて筋のないものが良品とされますが,昨今は食用としての百合根の方が身近に感じられ,また食用としての品質も同じ基準でよさそうです。

(神農子 記)