基源:イネOryza sativa L.(イネ科Gramineae)のもみ殻を去った玄米。

 最近は医食同源あるいは薬食同源の言葉があちらこちらで聞かれるようになりました。例を挙げるまでもなく,実に多くの食材が実際に薬用として病気の治療に用いられています。食材と言えども薬用とされるものの多くは少々癖のある味を有しているものですが,逆に癖がなくて最も食材らしい食材であって薬用に供されるものといえばコメでしょうか。

 薬用としてのコメは,『名医別録』中品に「粳米」の名で「味,甘,苦,平,無毒。気を益し,煩を止め,洩を止める」と記載され,また下品に「稲米」の名で「味苦,中を温め,熱多く,大便を堅くする」と記載されました。ここで言う稲米とは,李時珍が「稲(ト)とは,粳(ウルチ)と糯(モチ)の通称である。しかし,本草では専ら糯を指して稲という」と記しているように糯米(モチゴメ)のことです。ここで分かるように,現在われわれはコメはいくら食しても害のないものと考えていますが,三品分類に従うと,うるち米はいわゆる"保健薬"であり,もち米にいたっては"毒多く専ら治療薬"の範疇に入れられていると言うことです。

 コメはイネの実です。イネの原産地については,アッサム・雲南などのヒマラヤの山麓説が有力ですが,長江の中・上流とする説もあります。いずれにせよ,中国では古くから栽培され,その起原は6000年ほども前にさかのぼるようです。品種改良が繰り返されて現代にいたっていることはよく知られていますが,古来大きく粳種と糯種に別れていたことは今と変わりません。

 現在,一般に漢方生薬として利用されるのはもっぱら粳米の方です。清熱剤である「白虎湯」や「竹葉石膏湯」,また虚弱体質者の感冒後の長引く咳などに用いられる「麦門冬湯」に処方されています。粳米は他の同効生薬と比べると,中を和して胃を養う,すなわち滋養強壮の働きをも有している点に特徴があります。

 粳米の性質について,李時珍は「北方産は性が涼であり,南方産は温である。赤粳は熱であり,白粳は涼である。六,七月に収穫したものを早粳といい食料にする。八,九月収穫のものは遅粳,十月に収穫したものは晩粳と呼ばれる。北方では気候が寒く,八,九月に収穫したものでも性は涼であるので薬用にされるが,南方では十月の晩粳だけが性が涼であり薬用にされる」と記しており,土地の気候や収穫時期によって性が異なること,また性が涼のものが薬用に適していることがわかります。これは「遅粳と晩粳米は色が白く,肺に入って熱を解す」と記されていることに関連していると考えられます。

 一方の糯米は『名医別録』下品に「熱多く,大便を堅くする」とあるように,熱性があり,腸管内を乾燥させて大便を硬くする作用があります。便秘ぎみで兎屎のようなころころとした大便の人には要注意の食材です。また,性が温であるため,中国では本来性質が熱である小児や,陰が虚して腸管に熱を持ちやすい老人には不向きな食材とされています。逆にこの作用を利用して,韓国では民間的に虚弱や冷えなどによる下痢に糯米の粥を煮て食します。粳米にも下痢を止める作用がありますが,下品の糯米はさらにその作用が強いと言うことでしょう。また胃腸が弱い人は,糯米の粘滞質で消化し難い性質にも要注意です。

 コメは毎日食するものだけに,その薬効的な片寄りに注意する必要があるかもしれません。性質が"平"ですから万人向きの食材に違いありませんが,過食して脾胃を補い過ぎるのは考えものです。胃腸が丈夫で肥満ぎみの人はとくに白米の過食に注意すべきでしょう。

(神農子 記)