基源:センブリSwertia japonica Makino (リンドウ科Gentianaceae)の開花期の全草。

 センブリは味が苦いことで誰にも知られる民間薬です。2年生の草本植物で、日本各地の日当たりの良い山野に自生しています。茎は細く、丈は20〜30cm、葉は細長くて対生し、茎は上部で分岐して先端に紫色の条線がある4〜5裂の白いかわいい花を咲かせます。

 センブリの仲間は世界に約80種あり、細かく分ける説では、種子についている翼の有無や花冠の蜜線の数でさらに3属に分けています。すなわち、根茎がある多年草で種子に翼のあるものをミヤマアケボノソウ属(狭義のSwertia)、一年草または越年草で種子に翼がなく、花冠裂片の蜜腺溝が1個のものをチシマセンブリ属(Frasera)、同じく蜜腺溝が2個のものがセンブリ属 (Ophelia)で、この説に従うとセンブリの学名はOpheria japonicaとなります。

 薬物としてのセンブリは漢字で「当薬」あるいは「千振」と書きます。これは「当に薬」、あるいは「千回振り出してもまだ苦い」などに由来するといわれています。苦味の成分はswertiamarin、 amaroswerin、 amarogentinなどの苦味配糖体で、中でもamaroswerinは自然界に存在する苦味成分の中で最も苦い物質のひとつにあげられています。あまりの苦さに身体を「千回震わせる」というセンブリ語源説もまんざらではなさそうです。

 多くの薬物が中国から日本に入ってきたのに対し、センブリは中国の本草書に記載されておらず、海外から伝わったそれらしき形跡が見当たりません。日本各地の民間薬を調査した書物によれば、北は青森から南は鹿児島まで、主に胃腸薬として腹痛などに用いられ、中には蕁麻疹に使用される地域もあります。採集時期は夏の土用や開花期とする記載が普通ですが、中には「花をつける前に採集する」とする地方もあり、また「馬にふまれたものは効き目がない」など生活感ある記載も見られます。近年の研究によると、swertiamarinの含有量は開きかけの花冠がもっとも高く、ついで葉、茎の順につづくことが明らかにされ、苦さの面からは採集時期は花が満開となる直前が適しているようです。

 センブリがわが国でいつ頃から薬用にされたのかは明らかではありませんが、江戸時代初期の『本草辧疑』に「當薬」の名で「味は苦く、諸虫による腹痛を止めて治す」と記載されています。その他の用途として、『大和本草』に「糊にして裏打ちし屏風の紙を続けて貼れば虫は食わない」、『和漢三才図會』に「子供の肌着を染めるのに用いるとよく虱を避ける」などと、防虫効果なども記されています。

 中国の古い本草書にはセンブリの記載は見られませんが、近年の『中国高等植物図鑑』には、Swertia angustifolia var. pulchella、 S. diluta、 S. pseudochinensis、 S. yunnanensisなどの全草を湿を除く目的で薬用にすると記されています。

 一方インドでは、古来Swertia chirata(和名:チレッタ草)をKIRATATILTAKAやKIRATATIKGAの名で消化促進作用、解毒作用、発汗促進作用、催下作用、溶解作用などを有する薬物として利用し、また化膿創や皮膚病の洗浄などにも利用されてきました。日本、中国、インドでの知識を比べると、インドの知識が断然豊富なように感じます。それぞれの伝統医学によって治療に関する理論が異なるため、同じ基源の薬物でも扱われ方が異なって当然だと思われますが、センブリ属の薬用が一元的なのか多元的なのか興味が涌きます。

 以前はセンブリの栽培はむずかしいとされていましたが、今では栽培化に成功し、長野県などで年間10トン以上が生産され、需要の減少とあいまって値崩れを起こしています。品質的には長さが短くて枝分かれが多くて花付きの多いものが良質品とされ、また野生品のほうが苦味が強いようです。

(神農子 記)