基源:天然の含水ケイ酸アルミニウム及び二酸化ケイ素などからなる鉱物。

 滑石は,『神農本草経』上品に,「味甘寒。身熱,洩_,女子の乳癰,小便の_閉利を主治し,胃中の積聚,寒熱を除き,精気を益す。久服すると身を軽くし飢えに耐え年をのばす。」と収載されています。古来,猪苓湯,防風通聖散,加味解毒湯など小便不利,口渇,尿路結石の治療を目的とした漢方処方に配合され,現代中医学でも利水滲出薬に分類され,利尿通淋,清熱解暑,去湿瞼瘡の効果を有し,熱淋,石淋,尿熱渋痛,暑湿煩渇,湿熱水瀉や湿疹,湿瘡,あせもなどの治療に使用される薬物です。

 滑石の基源について,『日本薬局方外生薬規格』では「天然の含水ケイ酸アルミニウム及び二酸化ケイ素などからなる鉱物である」とされていますが,『中華人民共和国薬典』では「ケイ酸塩類鉱物滑石族の滑石で,主に含水ケイ酸マグネシウムMg3(Si4O10)(OH)2を含む」と成分的に異なった鉱物が収載されています。市場には「軟滑石」と「硬滑石」の2種があり,前者はカオリンに代表され,光沢,透明感,劈開性がなく,吸着性があり,市販のカオリンではpHは4.5〜5と酸性を示し,後者は概ね逆の性質を有します。一般に前者が含水ケイ酸アルミニウム,後者が含水ケイ酸マグネシウムを主成分とするとされています。すなわち,わが国では軟滑石が,中国では硬滑石が好んで使用されているといえます。

 古くは,陶弘景が「色は正白で仙経ではこれを用いる」と記し,蘇恭は「嶺南の始安(今の桂林付近)に出るものが白く凝脂のように極めて軟滑であり,エキ懸(今の山東省)のものはきめが粗く質が脆く青白く黒点があり,これは器を作り,薬用にはしない」と記し,雷公は「方解石のようで,色は氷のように白く,石の上に書くと白い細かい紋があるものが真物である」と述べ,また李時珍は「桂林の各村落など(古の始安の地)に出る。白黒2種類があり,功用は似ている。山東蓬莱懸からのものもよい。甚だ堅牢ではない。」と記載していることから,古来,滑石として,白くて滑らかで軟らかく,条痕色が白あるいは青白いものが利用されてきたことは明らかです。鉱物の硬度を10段階で示すモース硬度では滑石は最も軟らかい「1」に分類され,「2」の石膏よりも軟らかです。一般に滑石はタルクともいわれモース硬度は「1」ですが,ケイ酸アルミニウムを主成分とするカオリンのモース硬度は「2」とされます。すなわち生薬「滑石」の軟・硬はモース硬度とは逆であり,「軟滑石」「硬滑石」の名称は鉱物の硬さからついた名前ではなさそうですが,詳細は不明です。陶弘景は「白色で採取当初は泥のように柔らかで,時を経るに従い堅強になる。」といっており,これは乾燥により堅強になるためと考えられ,そしてこの性質はタルクよりもむしろカオリンの性質に似ています。よって,中国でも昔は含水ケイ酸アルミニウムが利用されていたのですが,途中で含水ケイ酸マグネシウムに替わったと考えるのが適切です。李時珍が「2種類あり,功用は似ている。」としていることから,明代にはすでに軟・硬の両方が使用されていたようです。

 滑石は局方収載生薬ではありませんし,配合される処方も繁用されるものではありません。しかし,身体全体のキョウ(孔の意味)を通じさせる力をもつ効果は,薬物として非常に利用価値の高いものと思われます。正倉院薬物の中にも鉱物生薬が数多く残されており,以前は鉱物生薬が多用されていたことが伺えます。近年,水や食べ物でもミネラルが重要視されるようになってきており,鉱物類生薬についても見直すべき時期にあるのかもしれません。

(神農子 記)