基源:Bambusa tuldoides Munro, ハチクPhyllostachys nigra Munro var. henonis Stapf ex Rendle またはマダケPhyllostachys bambusoides Siebold et Zuccarini (イネ科Gramineae)の稈の内層

 竹(タケ)の仲間はイネ科に分類される木本植物で,ときにタケ科(Bambusaceae)として独立扱いされることもある一群です。古来,その葉で食物を包んだり,敷物にしたり,また稈(木質の茎)が種々の食器として加工され,また編み物材料,物干し竿,建築材,薪炭材,飼料,肥料などとして,深く人々の生活にかかわってきました。竹類ほどその用途の多い有用植物は他に見付かりません。

 竹の薬用も多様で,『神農本草経』に葉,根,汁,實が記載されています。薬用種としては,『名医別録』に「菫竹」「淡竹」「苦竹」の3種があげられており,古来稈が太くなる種類が利用されて来たようです。ここで取り上げます「竹茹」は,稈の表皮下の組織を削ぎとったもの,つまり甘皮部分です。『名医別録』に「淡竹の皮?,微寒,嘔?,温気,寒熱,吐血,崩中,溢筋を主治する。」と収載されています。現代中医学では,清化熱痰薬に分類され,一種の清涼剤として使用されます。

 竹はわが国にも古くに中国からもたらされました。わが国では竹茹として淡竹すなわちハチクの甘皮を用いるのが一般的だったようです。しかし,『薬徴続編付録』では,橘皮竹茹湯の項で「竹茹は淡竹の茹を用いるが,もしなければ諸竹を仮に用いる。」とあり,『用薬須知』では「ハチクを上としマダケ(苦竹)はこれに次ぐ」と記されていることから,ほぼ中国の習慣に従って利用されていたようです。ハチクとマダケ由来の竹茹の薬効について,李時珍は「淡竹茹は傷寒労復,小児の熱癇,婦人の胎動を主治する。苦竹茹は水で煎じて服すれば尿血を止める。」と記載しています。江戸時代のわが国で竹茹として淡竹が賞用された背景には,中国においても同植物が多用されていたことに加え,マダケよりもハチクの方が生活に密着しており,量的にも豊富であったことが考えられます。竹類の中でもわが国ではハチクの使用頻度が最も高かったことは,正倉院宝物の竹材調査でも明らかにされています。

 竹茹の原植物として『中華人民共和国薬典2000年版』では,青稈竹Bambusa tuldoides Munro, 大頭典竹Sinocalamus beecheyanus (Munro) Mac-Clure var. pubescens P.F.Li, 淡竹Phyllostachys nigra Munro var. henonis Stapf ex Rendleの3種が規定されています。性味は甘,微寒。効能は清熱化痰,除煩止嘔とされます。苦竹(マダケ)については,性が苦であるためか,規定外とされています。市場には細長く削いだ甘皮をそのまま束ねたもの(粗竹茹)と,さらに細く削いたものを巻いて球状にしたもの(細竹茹)が出回っています。

 ところで,タケ類とササ類は別のものですが,互いに良く似ています。一般には生長後に鞘(竹の皮)が脱落するものをタケ,脱落しないものをササとしていますが,植物分類学的な基準としては利用されていません。また,巷では大型のものをタケ,小型のものをササとされるため,タケの仲間でも「オカメザサ」,ササの仲間でも「スズタケ」,「ヤダケ」,バンブーの仲間でも「ゾウタケ」,「ホウライチク」などと称されています。バンブーとは長い地下茎をひかずに株立ちする熱帯や亜熱帯に多い一群です。また,日本以外では竹類を一括して「バンブー」と呼ぶのが一般的です。

 古来多様に利用され大切に育てられて来た竹類も,最近ではプラスチックや鉄材など種々の工業製品に押され,その利用が激減しました。却って,昨今は放置された竹やぶが無秩序に広がり,里山の自然を破壊しつつあります。最近は竹炭が見直されています。折しも中国が木炭の輸出禁止を発表しました。今一度タケ類の有効利用を考えることも必要ではないでしょうか。

(神農子 記)