基源:Benincasa hispida Cogn.(ウリ科Cucurbitaceae)の種仁。

 冬瓜子は『神農本草経』上品に,「白瓜子」の名で「甘,平。人を悦澤にして顔色を好からしめ,気を益し,飢えず,久しく服すれは身を軽くし,老いに耐える」と記載されています。また『名医別録』には,「煩満して不楽を除く。久しく服用すると中を寒にする(胃腸を冷やす)。面脂を作り面を悦澤にする」とあります。

 『図経本草』に,「人家では蓄えておいて菜(おかず)を作り,また薬に入れる。はじめは青緑色をしているが,霜を経ると白粉がつく。年を越してから核を取り出し,洗浄後に仁を取り出して用いる」と,薬用には種子の中の仁のみを使用することが記されています。陶弘景も仁を用いるとしており,冬瓜子は古来種仁が用いられてきたようです。また,霜後に表面が粉白になることから,「白冬瓜」とも呼ばれ,『名医別録』では別條に「白冬瓜」として「小腹水脹を除き。小便を利し,渇を止める。」と記載されています。これは果肉についての効能を記したものです。

 原植物の和名トウガンは中国名「冬瓜」の日本語読みが訛ったもので,冬の瓜とは冬まで貯蔵できることから,あるいは冬に種子をまいたものがうまいからともいわれています。トウガンが属するBenincasa属は1属1種で,インドから中国南部が原産です。果実はスイカほどの大きさでやや長球形の長トウガンと臼形の大丸トウガンがあります。若いうちは表面に毛が密集し,熟すると毛は落ちて真っ白な粉を吹きます。果肉は食用にされ,生では硬く,煮ると随分と柔らかくなります。種子はカボチャのそれに似ていますが小型で,扁平で,長さ10〜13mm,幅6〜7mm,厚さ約2mm,色は淡灰黄色〜淡黄褐色を呈しています。その品質については,辺縁の肥厚している色の白いよく実った新しいものがよく,薄くて小さい暗色を帯びた色相の悪いものはよくない,と一色直太郎氏は述べています。

 冬瓜子が配合される処方に大黄牡丹湯があります。これは『金匱要略』に収載された処方で,肺癰(肺化膿症)や腸癰(虫垂炎)などに用いられ,とくに急性で単純性の虫垂炎に,手術をしない治療法として使われてきました。冬瓜子の腸内の湿熱を追い出す作用を期待したものと考えられ,処方中では冬瓜子は全体の約三分の一を占めています。

 現代の中医学では,冬瓜子(冬瓜仁)は清化熱痰薬に,冬瓜皮は利水滲湿薬に分類されています。冬瓜肉については,去湿瀉熱に働くとされますが積極的には薬用にされていません。

 果菜としての冬瓜は,わが国の家庭では一般にあんをかけた煮物に調理して食されますが,中国では夏にスープとして調理されることが多く,これは冬瓜の体を冷やし,渇きを止める作用を期待したものです。マレーシアでは暑くて咽が渇く時には,手っ取り早く生をそのまま食べるそうです。食用にするウリ科植物には,果物としての西瓜(スイカ),甜瓜(マクワウリ)や野菜としての冬瓜(トウガン),南瓜(カボチャ),越瓜(シロウリ),糸瓜(ヘチマ),胡瓜(キュウリ),苦瓜(ニガウリ),瓢(ヒョウタン)などがありますが,古来,果実の果皮,果肉,種子などすべての部分を薬用に用いてきたのは冬瓜だけのようです。

(神農子 記)