基源:シャクヤクPaeonia lactiflora Pallas(ボタン科Paeoniaceae)の根。

 シャクヤクは鎮痛,鎮痙,活血,補血作用を有し,多くの漢方処方に配合される重要な生薬です。独特の香りがあり,現行の『日本薬局方』では品質評価の指標として主成分とされるpaeoniflorinを2.0%以上含有することを規定しています。

 現在のわが国に流通する市場品を大別すると,日本産,中国産,北朝鮮産,韓国産があり,加工方法は根の表面の周皮(コルク層)を除去し湯通しした「真芍薬」,周皮を取り除いて乾燥した「生干し芍薬」,周皮をつけたままの「皮付き芍薬」等があります。

 今回は芍薬の池田ら(1966)の品質評価研究(池田憲廣ら:芍薬の品質評価(第1報)高速液体クロマトグラフ法によるシャクヤク中のモノテルペン類の定量分析,外部形態,修治方法及び産地の異なる薬材の比較研究:薬学雑誌)の内容を紹介します。

 この研究では,筆者らはモノテルペン配糖体及びモノテルペンについてHPLCによる同時分離定量法を確立後,日本産,中国産,韓国産,北朝鮮産の芍薬のモノテルペンおよびモノテルペン配糖体の含量を明らかにし,外部形態,産地,加工方法による差異について比較考察を行いました。実験に供した試料は,平成元年〜6年に収集された日本産16検体(白芍;皮去り10・皮付き6),中国産45検体(白芍;皮去り10・皮付き23,赤芍;皮付き12),韓国産3検体(白芍;皮去り2・皮付き1),北朝鮮産3検体(白芍;皮付き3)の市場品67検体です。分析された成分はモノテルペン配糖体8種paeoniflorin,oxypaeoniflorin,benzoylpaeoniflorin,benzoyloxypaeoniflorin,galloylpaeoniflorin,galloyloxypaeoniflorin,albiflorin,lactiflorin,及びモノテルペンpaeoniflorigenoneでした。

 その結果,paeoniflorin含量については,平均値では多い順に,中国産赤芍,日本産および韓国産皮付き白芍,中国産皮付き白芍,日本産および韓国産皮去り白芍,中国産皮去り白芍であったとし,白芍よりも赤芍が有意に高いこと,皮去りよりも皮付き品に高い傾向があること,日本産白芍が中国産白芍より有意に高いこと,赤芍は高含量と低含量に分かれる偏りがあること,皮去り白芍は赤芍や皮付き白芍に比してばらつきが小さいこと,中国産皮去り白芍には2.0%に満たないものがあること,などを報告しています。また,paeoniflorinと他の成分との比較では,白芍では測定した成分中でpaeoniflorinが全体の半分以上を占め,皮去り白芍と皮付き白芍では後者の方が含有比が高いこと,中国産赤芍では,paeoniflorinの含有比は半分以下で白芍とは成分組成比が異なること,また北朝鮮産皮付き白芍ではpaeoniflorinの量は日本産とほぼ同等であるがばらつきが最も大きく,paeoniflorinよりもそれ以外の成分の割合が高い,などと報告されています。

 以上の結果から判断すると,一般にpaeoniflorinは周皮近くに含量が高く,また赤芍のpaeoniflorin含量の偏りは,従来知られているように原植物が遺伝的にかなり異なることを意味する結果であると思われます。

 Paeoniflorinには鎮静,鎮痛,抗炎症作用,ストレス潰瘍予防,血管拡張,血圧降下,平滑筋弛緩などの諸作用が報告されています。芍薬の古来の作用とされる鎮痛,鎮痙,活血,補血作用の主体となる成分がpaeoniflorinであるならば,日本産もしくは北朝鮮産の皮付き白芍,あるいは中国産赤芍の使用が望ましいのかもしれません。しかし,現在日本の市場には芍薬として皮去りの白芍が多く流通しています。このことは本報告内容から判断すると,paeoniflorin含量はそれほど高くはないが,品質面で安定しているということになります。

 一方,中国では白芍には補血・止痛作用が,赤芍には活血・清熱作用があるとして「白芍・赤芍」を使い分けていることからも,シャクヤクの品質はpaeoniflorinの含有量だけでは説明できない部分があり,さらなる研究が望まれるところです。

(神農子 記)