基源:ホオノキMagnolia obovata Thunb., M. officinalis Rehder & Wilson 又は M. officinalis Rehder & Wilson var. biloba Rehder & Wilson (モクレン科Magnoliaceae) の樹皮。

 厚朴は『神農本草経』中品に「中風,傷寒による頭痛,寒熱による驚悸,気血痺,死肌,三蟲を去る」と収載され,現代中医学では行気薬に分類される生薬です。その品質について,李時珍は,「皮が厚く,味が辛烈で,色が紫赤である。故に厚,朴,烈,赤の名がある」,蘇頌は「皮は極めて鱗皺があって,厚く紫色で潤いが多いものが佳い。・・・3月,9月,10月に皮を採って陰干する」といっており,古来,皮が厚く,味が強く,香りのあるものが良品とされてきました。

 わが国では厚朴は第7改正日本薬局方(1961年)にホオノキMagnolia obovata Thunbergが原植物として収載されました。以後,第13改正で中国産のM.officinalis Rehder et Wilson およびその変種var. biloba Rehderが追加収載されました。現在では一般に日本産のM. obovata由来のものは和厚朴,中国産のM.officinalisおよびその変種var. biloba由来のものは唐厚朴と称されています。なお,『中華人民共和国薬典』ではM.officinalisおよびその変種var. bilobaのみとし,4〜6月に採集し,「煮る」,「発汗」,「蒸す」,「乾燥」の加工を施すことを規定しています。

 これら日・中産の厚朴の品質に関して,有本ら(1999)が詳細に検討し,相違点を明らかにしました。さらにその相違の要因についても検討されました。実験材料と方法については,市場品(日本産28検体,中国産33検体)の厚さ,色,灰分,酸不溶性灰分,エキス含量,マグノロール含量,ホノキオール含量,マグノクラリン含量,マグノフロリン含量などを比較検討し,その後,『中薬通報』や『中華人民共和国薬典』記載の加工方法にもとづいた4種類の方法で調製した生薬についても同様に比較検討されました。

 その結果,市場品厚朴の厚さは日本産が平均で約2mm厚く(中国産1.5mm〜6.1mm,日本産2.5mm〜13mm),厚さ6mm以上の生薬はほとんどが日本産でした。色は日本産がL* 42.8 , a* 11.2 , b*16.6,中国産は L* 36.8 , a* 10.6 , b*14.2 で中国産の方がやや暗色を呈し,赤味,黄色味はわずかに日本産の方に強い傾向が見られました。乾燥減量,灰分,酸不溶性灰分については日中間に差はなく,希エタノールエキス含量及び水製エキス含量は日本産で約3%高く,ホノキオール含量は平均値では中国産がわずかに高かったのですが,それぞれの値は0〜3.61%と大きくバラついていました。マグノロール含量については日本産で0.28〜4.21%,中国産で0.01〜3.85%と,ともに大きくバラつき,両者間に有意差はありませんでした。またマグノフロリン含量にもほとんど差はなかったのですが,マグノクラリン含量は色が明るいほど高い傾向があり,日本産に多く含有していました。以上,市場品の品質について,日本産は中国産よりも厚く,色はやや明るく,エキス含量が高く,マグノクラリン含量が若干高いなど,両者間の性質の違いが明らかにされました。

 加工調製の違いによる成分含量の変化については,自然乾燥に比べて,「煮る」ことによりマグノロール,ホノキオール,マグノクラリン,マグノフロリン含量はわずかに減少し,「煮る」に「蒸す」を加えることによりマグノフロリン含量は約50%減少しました。エキス含量は自然乾燥よりも「煮る」ことにより,また更に「蒸す」ことにより減少しました。このような加工調製を施すことによって,色は暗色方向へと順次変化したことから,中国産厚朴が暗色を呈する理由は加工調製の結果であることが明らかになりました。

 報告者らは以上の結果を総合的に判断して,厚朴の色の変化やエキス含量の低下は加工調製に依り,化学成分の違いについては基源に起因する可能性が高いと結論しました。

 なお、今回の結果からマグノロール含量が日局で規定される0.8%に満たない生薬は全体の16%ありましたが,それらは厚さ2.6〜5.4mmの生薬にみられ,それ以上の生薬には見られませんでした。マグノロール含量について、樹皮が薄い生薬はバラツキが大きく局方に適さないものもありますが,それに比して厚い生薬は安定しているといえそうです。ただし、今回の実験材料中には中国産の厚い生薬はなかったようです。

 近年,ホオノキから抽出されたマグノロール及びホノキオールに比較的強いガン転移抑制作用のあることが確認され,特にマグノロールについては新しい抗ガン剤やがん予防への開発研究が進められているそうです。

(神農子 記)