基源:中国産は Dipsacus asperoides C.Y Cheng et T.M.Ai(マツムシソウ科 Dipsacaceae)の根を乾燥したもの

 続断は,『神農本草経』上品に「味苦,微温。傷寒の病を治し,不足を補う。金瘡,癕腫,打撲,筋骨の折傷,婦人の乳難などに用いられる。久しく服用すると気力を益す。一名龍豆,一名属折。」と収載されています。

 『中華人民共和国薬典』では,続断の原植物はDipsacus asperoides C.Y Cheng et T.M.Ai(中国名:川続断)とされ,秋に採集し,根と根頭部及びひげ根を除去し,微火で烘って半分ほど乾燥させ,内部が緑色に変色するまで置き,再び烘って乾燥させることが記載されています。よって,本品由来の続断を折ると,内部は緑色をしています。

 原植物の川続断は,高さ60〜90cmの多年生草本で,根は長い円錐形を呈します。よく似た植物として,わが国には同属植物のナベナD. japonicusがあります。

 歴代本草家によれば,陶弘景は『薬録』を引用して,「茎が細く,葉は荏の大きさほどのつる性植物の根を七月,八月採取して使用され,その根は大きく黄白色で汁があったことが窺えるが,今では茎,葉が用いられている」としています。また,「節節で断ち,皮に黄皺があり,鶏の脚のようなものは桑上寄生とも呼ばれ、その他に高さが一丈余ほどで葉が?藋に似た接骨樹といわれる植物の皮は金瘡の治療に効果がある。また広州では,茎から得た汁を飲めば虚損,断傷を療ずるという続断藤,一名一藤というものがある。」と効能が類似する異物同名品が複数あることを示しています。蘇敬は,「俗に用いるものは,葉は苧に似て茎は四角,根は大薊のように黄白色である。」蘇頌は,「三月以降に苗が生え,幹に四稜があり,苧麻の葉に似ており,この種類は両両相対し,四月に益母の花に似た紅白色の花を開き,根は大薊のようで赤黄色で,七月,八月に採集する。」と記載しており,ともに類似する植物を記しているようです。また,『図経本草』に付されている晉州,降州(山西省),越州(浙江省)続断の3図をも考慮すると,続断の原植物にはヤドリギ科,シソ科,スイカズラ科,キク科植物などが想像されます。

 李時珍は,続断の名称について,「一名である属折(神農本草経)や接骨(名医別録)をも含めて,いづれもその効力を示すものである。」と記載しています。また,古来続断に関する定説がなく,漢代以来,大薊が続断として言い伝えられてきたことや,今一般に用いられるものは四川省から来るもので,色は赤く瘠せており,折れば烟塵の発するものが良品であるとも記載しています。四川省は続断の主産地とされ,李時珍がいう四川省から来る続断は川続断であったと思われますが,詳細は不明です。

 わが国では,一色直太郎氏が「證類本草に収載される続断はオドリコソウの根で,真の続断である。細くて味甘く折ってみると心があって粉塵を飛散するものがよい。しかし,享保(江戸中期)以後,市場の続断は皆南続断といって大薊の根をとったもので,味は苦く長大な分岐根である。」としており,『本草綱目啓蒙』では,「竹林の中に多くあり,八月に古根から群生し方茎で葉は相対する。尺八を吹く形の花で淡紫色,又白花もあり,夏になると根は枯れず形は細くて多く群生する。これが川続断である。舶来のものは根が皆大きく南続断という,形は薊根に似たものがあることから,本邦では薊根をとって売るものがいる。然れども舶来の中に茎を連ねるものもあり,これは薊類ではない。薬に入れるには川続断を用いる。」と記載され,江戸中期にはやはり複数基源の続断があり,また薊根(アザミ属植物の根)もが続断として売られていたことが窺えます。現在でもわが国では,和続断として主にノアザミの根が利用されています。

 以上,続断の原植物は未だに混乱し,明らかにはされていません。一般に,本生薬のように,薬効が生薬名となったものには異物同名品が多いようです。

(神農子 記)